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翌朝早く、隣りの玄関前が騒がしくて、未夏はくっついた瞼をこすりながら起き出した。
「なんだかなー、まだ六時前じゃん。 なにごと?」
窓まで這いずっていって、目だけ出すと、パンパンに張ったスポーツバッグを、貞彦が車の後部座席に放り込んでいるところだった。
窓枠に生首状態で、未夏は眠そうに尋ねた。
「どっか行くの?」
貞彦は顔を上げて、呑気に答えた。
「今日から合宿。 バスケの。 昨日話そうと思って忘れてた」
「ふうん、いつまで?」
「八日間だから……何日かな。 めんどくせ、ともかく八日経ったら帰ってくる」
「二十三日か二十四日ね。 がんがれー」
「あんがと」
一応エールを送ってから、未夏は頭を引っ込めた。 よく見えないが、運転席に古河のおじさんが坐っていたらしいから、駅まで送ってもらうのだろう。 間もなく玄関からおばさんも出てきて車に乗った。
博己は見送りに下りて来なかった。 朝早くて起きられなかったのだろうと思ったが、少し気になった。
その晩遅く、未夏は全く違うことで目を覚ました。 一階の和室から母が駆け上がってきて、凄い勢いで揺すぶったのだ。
「未夏、未夏! 起きて! 火事よ!」
火事?
未夏は即座に飛び起きた。
「うち? キッチン?」
「ちがう、隣りよ! ほら、窓見て」
青ざめて、未夏は西の窓に走っていった。 古河の家は、未夏の家にくらべて南にずれて建っている。 だから窓の左前が真っ赤に燃え上がっていた。
「ヒロちゃん……」
真っ先に意識に上ったのは、その名前だった。 いつもは博己の隣り部屋に寝ている貞彦は、今日から合宿で留守にしている。 二階は博己ひとりだけだ!
「ヒロちゃん、逃げた?」
「わからない。 何度も呼びかけたけど、誰も返事しないの。
風向きが変わったら、うちにも火がつくかもしれない。 父さんがホースで水かけてるから、未夏も手伝って!」
父の通報から五分ほどして、消防自動車が駆けつけてきた。 風向きが東南だったため、未夏の家は延焼しなかった。 向こう隣は道を挟んでいて、そちらもなんとか無事だった。
一時間経って鎮火した後、消防士が古河家の中に入って捜索した。 家は、まったくの無人だった。
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