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着いてから半時間ほどぶらぶらしていると、やがてお囃子が始まった。
面を被った昔ながらの踊りが続く。 おかめ・ひょっとこ、狐囃子と、だんだん曲が速くなり、雰囲気が盛り上がったところで、鳥居から火が放たれた。
長い導火線を、勢いよく口火が渡っていき、巨大な傘型の仕掛けに乗った四角い箱に、パッと燃え移った。
傘の骨を伝って、中央から火の線が広がっていく。 やがてその線が縁に達すると、細かい火のしずくが筋となって、きらきらと地面に降りそそいだ。
歓声と拍手が入り混じった。 美しい光の流れは、赤から緑、白と色を変えて五分あまり続き、次第に弱まって、消えていった。
若者たちが傘の下に行って、取り合いを始めた。 放射状に飾ってある造花を貰おうとしているのだ。 リンゴ飴をなめながら未夏が目をこらすと、貞彦も中に入って奮戦していた。
「きれいだったねー」
横で熱心に花火を見つめていた基子が、夢見るように言った。
「うん、雨乞いの儀式で、なんか昔から続いてるんだって」
そこへ、空手の貞彦が、息を切らせながら戻ってきた。
「もうちょっとってとこだったんだけどなー。 みんな手が早いよ」
「じゃ、そろそろ帰るか」
この声は、腕を組んで眺めていた未夏の父のものだった。
まだ境内は賑わっていた。 スマートボール釣りや金魚すくいのビニールプールを、基子はやりたそうに横目で見て通り過ぎた。
小此木の両親が先頭で、すぐ後に基子が続き、後ろから貞彦が大股で追いついた。
しぜん、未夏と博己が最後尾に残される形になった。
「今何時?」
未夏が隣りに訊くと、博己は左腕を持ち上げて腕時計を確かめた。
「九時二十三分」
「十時過ぎにはうちに帰れそう」
「ああ。 基子ちゃんのお父さんも怒らないだろ」
「来て、よかったね?」
「うん、よかった」
どちらからともなく、顔を見合わせて笑った。
前では、楚々とした基子の白いストライプのワンピースが揺れている。 並んで歩く貞彦は、格好つけてポケットに両手を突っ込んでいた。
道を横切って車を預けた家まで行くとき、未夏は段差に足を取られてグラッとなり、すぐ横にいた博己に軽くぶつかった。
「あ、ごめん」
博己はすぐに反応して、未夏の体を支えた。
その手は、離れることなくブラウスの胴を挟んだままでいた。
緊張して、いくらか濁った声が降りてきた。
「仲良しでいような、ずっと」
というより、それ以上のものになりたい空気だった。
――もっと言ってよ。 もう一言――
未夏の胸が不意にバクバクし出した。 もしかすると、告白……?
「ここにすぐなじめたのって、未夏ちゃんのおかげ。 初めに、明るく話しかけてくれて、すごい気持ちが楽になった」
「あ……そうだった?」
嬉しいのと気恥ずかしいのが一緒になって、未夏はうまく答えられなくなってしまった。
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