表紙








とりのうた 14



 帰りが夜の十時か十一時になると聞いて、基子は少しためらった。 一人娘だし、固い家なのだ。
 それでも、川籐のおじさんに電話に出てもらって、ようやく許しが出た。 メインの花火が終わったら、すぐ帰るという条件付きで。


 こうして、八月半ばのちょっと蒸し暑い夕方、小此木おこのぎ一家と三人の子供達は、ガヤガヤと藍色のワゴン車に乗り込んだ。 運転席と助手席には未夏の両親が、後ろの座席を向かい合わせにして四人の子達が、それぞれ坐った。
 四人は、さっそくトランプを始めた。 持ってきたのは貞彦だった。
「ババ抜きやろうぜ」
「やーだね、すぐ人のことババァなんて言うから。 ジジ抜きじゃなきゃ、やんないね」
 未夏がツンとしてみせると、貞彦は基子の手前、すぐ折れた。
「いいよ、わーったよ。 ほら、ジョーカー入れちゃる」
 そう言って、慣れた手つきで配った。
 もらった手札を、博己がしげしげと覗きこんだ。
「おや、このジョーカー、平和鳥だ。 うちの玄関にずっと置いてあったんだ。 なつかしー」
「あ、ばか! 自分のとこ来てると白状してどうする!」
 貞彦が博己にすっとんきょうな声を上げたので、女子組は笑い転げた。
 助手席から晴子が振り返って、ちょっとうらやましげに言った。
「楽しそうね、あんたたち。 あーあ、もう一度若い頃に戻れないかな」



 知り合いの駐車場に車を入れさせてもらって、一同が祭の開かれている鷲神社に向かったのは、夜の八時を回った時分だった。
 参道の周囲には露店が並び、にぎやかに人が行き来していた。 ひときわ明るい屋台の舞台で、振袖を着た歌手が歌っている。 境内には巨大な傘の骨組みのようなものが置かれていて、造花を飾った棒がその下に放射状に刺しこまれていた。
「あれに上から火がつくんだ」
 未夏は初めての博己に、傘を指差して教えた。
「からかさ万灯っていうの」
「もうじきお囃子が始まるんじゃねー?」
 貞彦がキョロキョロ周囲を見回した。







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