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未夏と博己が二人揃って帰ってきたのを、貞彦が見つけた。 それで喜んで、二階の北側の窓から身を乗り出すと、大声で叫んだ。
「お似合いだねー、君タチ!」
ギクッとなって、未夏は肩を怒らせた。
だが、彼女が言い返す前に、博己が顔を上げて、のんびりと答えた。
「ありがとー!」
ありがとう?
瞬時に、頬がカーッと熱くなった。
生まれて初めての反応だった。 それまで未夏は、怒って血が上ったことはあっても、ポッとなって顔を赤らめた、なんていう経験は一度もなかったのだ。
だから、身の置き所がなくなった。 あわてて下を向き、大きなバッグを肩に揺すりあげてから、そそくさと我が家の玄関に向かった。
「さっき言いかけてたよね。 明後日お祭に行くんだって?」
後ろから声がかかった。 振り向けず、未夏は口の中でもぐもぐ返事した。
「う……うん」
「近く?」
「四十キロぐらい離れてるかな。 土浦だから」
「四十キロか。 チャリで行ってみようかな」
そこで、やっと振り返れた。
未夏はぎこちない笑顔を作って、立ったままこっちを見ている博己に提案した。
「それならさ、うちの車で一緒に行かない? ワゴンで六人乗りだから、みんな乗れるよ」
「貞彦も誘うか」
「そだね。 私は基子に声かけてみる。 後で窓から言うね。 たぶん五時ごろ」
「オッケー」
博己の顔にも微笑が浮かんだ。 ほっとしたような、優しい表情だった。
玄関に入っても、まだ胸がどきどきしていた。 薄暗い屋内が、ところどころまだらに明るく思える。 さっき見た博己の笑顔が、マシュマロのように柔らかく胸の中に広がった。
――いいよなー、ヒロちゃんって。 ほんといいよ――
自分でいて、しかも自分じゃない声が、どこからかそっと話しかけてきた。
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