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小屋には、穴だらけの古い漁網や、壊れたモーターボートのエンジンなどが、無造作に放りこまれていた。
その横で、未夏と基子はクスクス笑ったり囁きあったりしながら着替えた。 基子は胸元に小さなリボンのついたチェックのセパレーツ。 未夏はブルーに白い縁取りをしたワンピースを着た。
まだパレオが広まる前だった。 二人が袖なしと半袖のビーチウェアを羽織って小屋から出ると、紺と黒の海水パンツになった男子たちが、うれしそうに迎えた。 貞彦の手には、西瓜模様のビーチボールが握られていた。
「ちょうど四人いるからさ、ビーチバレーしようぜ。 ネットはないけど、打ち合って落としたら負け」
「暑いから、海に入ってやらない?」
「そうだな」
「先に海水にタッチした人が、組み合わせを決めるの。 どう?」
「それで行こう!」
ワーッと、四人は砂浜を走り出した。 意外にも、博己は貞彦より足が速く、すべるように駈けて真っ先に波打ち際にたどり着いた。
「一着!」
ゆるやかに寄せる波に軽く手をつけて、高らかに宣言すると、博己は息をハアハアいわせながら、まっすぐに未夏を見て笑った。
「俺、未夏ちゃんと組む」
貞彦はほっとした顔で、派手なビーチボールをさっそく博己にぶつけた。
「おーし、ワンセット十五ポイントな。 そーれっと」
さっと塗った日焼け止めなんか、すぐ取れてしまった。 砂と海の境目を、四人は小犬のように走り回った。
初め、貞彦は女の子相手に投げる感覚がわからなかったらしい。 やたら強く打ったり、遠くへ飛ばしすぎたりして怒られたあげく、だんだんコツを掴んでチームワークがよくなった。
一方、博己は淡々と動いていた。 的確にボールを打ち返すが、派手なスパイクはしない。 それでいて。未夏を襲った貞彦の豪腕アタックを、二度ほどひょいと腕を伸ばしてはじき返してくれた。
あっという間に半時間が経った。 波にさらわれかけたボールを、基子が危うくすくい取ったとき、博己がさりげなく言った。
「なんか、喉乾いてきた」
腕が赤くなってきたのを気にしていた未夏は、ほっとして口を合わせた。
「だよねー。 冷たいもん食べに行こうか」
バレー遊びがやけに楽しかったらしい貞彦は、ちょっとふくれっ面になったが、基子がニコニコ未夏と手を取り合ったので、すぐ機嫌を直した。
「そうだな。 まだセット二対一だけど、続きは今度な」
実は、貞彦たちが負けている。 だんだん不利になっていたから、中止しやすかった。
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