表紙








とりのうた 7



 小さな町だが、一応目抜き通りはある。 ラーメン屋、電器屋、菓子屋が軒を連ねている『カモメ通り』を、四人は前後しながらのんびりと歩いた。
「ほら、あそこが郵便局で、向かいの角がハマユウ信金」
「公衆電話は、信金の裏手と駅前に一つずつあるんだ」
「海は?」
 信金横のY字路で、博己は伸びをするように首をもたげて尋ねた。 すぐに基子が手を伸ばして教えた。
「右へ行くの。 坂を下って三分ぐらいかな」
「まだ昼飯食ったばっかで腹空かないよな。 先に浜へ行って、ちょっと遊ぶか」
 待ってましたというように、貞彦が提案した。


 緩い坂道を降りていった先は、左右にどこまでも広がる遠浅の海岸だった。 ほとんど視界を遮るものがない。 左に小さくタンカーが浮かんでいるのが見えるだけだった。
「あれ、鹿島港に入るとこなんだよ」
 未夏に言われて、博己はうなずき、眩しそうに青一色の空を見上げた。
「雲が一コもない」
「これじゃ夕立も期待できないね」
「水に入れば涼しくなる。 あっちの脱衣所に行こうぜ」
 四人が歩き出したとたん、すだれのかかった海の家の横から、小さなボードや浮き輪を持った子供たちが溢れ出てきた。 幼稚園の年長さんらしかった。


「うへっ」
 賑やかな声に圧倒されて、貞彦は後ずさりした。
「いい場所取られたぜ。 あっち行こう、あっち。 ちょっと歩けばヒゲ大将の小屋があるからさ」


 ヒゲ大将とは、貞彦がときどきバイトさせてもらう貸しボート屋の主人だった。 店は道に上がったところにあるが、海岸に沿った土手の下に、二軒続きの道具置き場を持っていた。
 一軒には鍵がかかっていた。 だが、もう一軒の古いほうは、盗まれるものもないからということで、扉を突っかい棒で止めてあるだけだった。
「俺たちは下に海パンはいてきたからさ、未夏たち中で着替えなよ。 誰も来ないように見張っててやるから」
「貞彦が覗くんじゃないのー?」
 未夏がからかうと、貞彦はパッと赤くなった。
「おまえ、すぐそういうことを……」
「覗かないよ。 それに、中に古い戸がたてかけてあったから、あの後ろで着替えれば、誰にも見えないよ」
 博己が真面目に答えた。







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