表紙








とりのうた 5



 一時半に出かけることで相談がまとまり、窓越しの話し合いは終わった。
 未夏が立ち上がって、引っ込もうとしていると、下から呼びかけられた。
「なあ、未夏?」
「なに」
 ウザそうに覗いた未夏に、貞彦が訊いた。
「基子ちゃん、呼ぶ?」
 おお、わかりやすい。 顔がゆるみそうになったのを押さえて、未夏はわざと気のない口調で応じた。
「どうするかなー。 基子、今日は忙しいらしいんだ」
「電話かけてみろよー。 きっと来るよ。 夏期講習行かねーんだろ?」
「まだ中二だもん。 塾のは八月だし」
「電話かけろ。 基子ちゃん来たら、パフェおごってやっから」
「ほんと?」
 おしゃれな喫茶店でデートっぽくするつもりだ。 みえみえだが、貞彦の初恋が面白くもあった。 いちおう訊いてやることにして、未夏は着替えをクローゼットから出し始めた。


 基子は家にいて、しかも退屈していた。 町をブラッとしようと誘うと、貞彦よりも、新しく来た子に興味を示した。 どんな子か、一度会ってみたいと言うので、参加がすんなりまとまった。
 お昼に冷やし中華を食べた後、未夏はボレロとチェックのジャンパースカートに着替えて家から出た。 一時二十三分だったが、もう隣りの玄関前に男の子二人が立っていて、貞彦は盛んに道路を気にしていた。
「なあ、ほんとに来るんだろうな?」
「焦んないの。 まだ時間前だし、女の子は支度がいろいろあるんだから」
「ちょっと遠回りだけど、迎えに行くか」
「だめだよー。 すれ違いになったらどうすんの?」
「そうだな」
 二人が言い合いをしているうちに、横に立っていた博己がふと声を出した。
「あの子じゃない?」
 あわてて口をつぐみ、未夏と貞彦が首を回すと、リボンつきのストローハットを押さえて、基子が小走りにこっちへやってくるところだった。






表紙目次文頭前頁次頁

背景:Fururuca/アイコン:叶屋
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送