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≪99≫
陶子が牧田に送ってもらってホテルに戻ると、ロビーの端に紫吹と毛利が並んで座っているのを見つけた。
盛んに身振り手振りしながら話しているので、何をやっているんだろうと近づくと、向かい側の椅子に大野原氏と立石社員がいて、熱心に紫吹たちの説明に聞き入っていた。
立石が真っ先に陶子たちに気づき、立ち上がって迎えた。
「あ、今これまでの経過を伺っているところです」
紫吹が振り返り、兄に向けてあけすけに言った。
「駄目じゃん、二人で消えちゃって。 大野原さんと立石さんだって事情を知りたいのに」
陶子は慌てて謝った。
「申し訳ありません。 あの、牧田さんの無事な顔を見たくて……」
思わず本心を口にしてしまい、陶子は真っ赤になって固まった。 大野原が訳知り顔にうなずいて、にこりとすると、牧田を興味深げに眺めた。
「悠輔が君と妹さんのことをよく話してましたよ。 人を預かるのは責任の重いことだが、君たちは義務以上の喜びを与えてくれる、と言ってました。
悠輔の期待にたがわず、頼もしい大人に成長されて、よかった。 あいつも草葉の陰で喜んでますよ」
牧田は無言で、深く頭を下げた。 唇が細かく震えているのを、傍にいた陶子だけが見てとった。
被疑者のマヌエル秦がすでに死んでいるため、現地の警察と、後から現場に到着した日本の警察関係者は、あまり熱意を見せなかった。
それでも現場検証は行われ、淡々と処理された。 逮捕された佐々川の証言に基づき、殺害はマヌエルの単独犯行との結論が下った。
十二月半ば、悠輔と親しかった人々を招いて、偲ぶ会が開かれた。
物静かだが行動力と思いやりがあった悠輔には、娘の知らない交友範囲の広がりがあった。 お焼香だけでも、と、飛び入り参加する人が後を絶たず、ゆとりのあるはずだった会場が一杯になるのを見て、陶子は改めて嬉し涙を流した。
牧田は、背後でいろいろと手助けしてくれたが、決して表面に出てこようとしなかった。 その点は、目立ちたがり屋だと自分でいう紫吹も同じで、しっかりけじめをつけて、裏方に徹していた。
陶子は、そんな二人に深く感謝すると同時に、物足りなさも感じていた。 もっと心を許してほしい、いつも彼らの温かさを感じていたい、と、望みがふくらむ。 特に、牧田がなんとなく距離を置きはじめたのが不安だった。
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