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表紙

透明な絵 ≪96≫

 やきもきしながらも、陶子は会社の仕事を確実にこなす努力を続け、地球の裏側で繰り広げられている捜索を、できるだけ不安がらないようにしていた。
 ペルーの時刻は、日本より十四時間遅れている。 夜の十一時ぐらいに電話をかけると、向こうは前日朝の九時で、話しやすかった。
 次の日は、結局交渉だけで過ぎてしまったようで、向こうの警察が行動を起こしたのは、その翌日だった。
 いざ本気になると、作戦は早かった。 国境付近ではゲリラが日常的に出没する国柄なので、訓練ができているらしい。 近くの県からも応援が来て、藤沢農場を占拠していた男たちは数時間で追い払われた。


 その前に、牧田たちは農場の建物を作った建築業者を探しあてていた。 ホアキンという社長によると、建てる前に一箇所、地面が掘り返されてまた埋められた部分があったそうだ。
「その上にコンクリートを分厚く敷いて、穀物倉庫を作ったんだと。 きっと、大量の袋を天井まで重ねておけば、それだけ床を掘り返すのが面倒になると踏んだんだろうな」
 電話で、牧田は憎らしそうに唸った。


 二日後、陶子が恐れながら待っていた知らせが届いた。
 大きな穀物倉庫の、何層にも塗り固められたコンクリートの下から、人骨が発見されたのだった。




 佐々川が逮捕されてから八日後の週末に、陶子はペルー行きの飛行機に乗った。 重役たちが、ベネズエラに留学したことのある若手社員の立石〔たていし〕をつけてくれた。 また、父悠輔の友人で、共にマカ製品の開発を計画していた大野原〔おおのはら〕氏も、ぜひにと言って同行した。
 アメリカのダラス、マイアミと乗り継いで、三人の乗った機は順調にリマの空港に着陸した。 荷物のカートを押しながらロビーに出て、だいぶ日に焼けた牧田の顔が目に飛び込んできたとき、張り詰めた陶子の瞳が初めて緩み、涙があふれた。




 お互いに、報告することが山のようにあった。 毎日のように連絡を取り合っていても、国際電話では細かい点までは話しづらい。 会社のほうで陶子に気を遣って、ミラフローレス地区にある高級ホテルにスイートを取ってあったが、陶子は一応その部屋に荷物を置くと、牧田たちが泊まっているラルコ・マル(展望台)近くのリーズナブルなホテルに案内してもらった。







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