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≪91≫
再び身支度をし直して、陶子は階段を下りた。
リビングに入っていくと、ホットサンドを温め直して皿に載せていた牧田が顔を上げた。
目を合わせるのが気まり悪く、陶子は視線をさまよわせたが、牧田はじっと彼女を見詰めて、愛しそうに微笑んだ。
「明るくなってる。 元気出たんだね」
「ええ。 誰かさんのおかげで」
照れながら答えると、牧田の微笑は大きく広がって、ひまわりのような笑顔になった。
彼は身軽にテーブルを回り、陶子のために椅子を引いた。
「さあ、座って座って。 陶子さんの会社まで、ずっと車で行くのと、電車に乗り換えるのと、どっちがいい?」
車だと電車より時間がかかるし、運転する牧田を疲れさせると思い、陶子はいつもの電車通勤を選んだ。 本当は、彼に遠慮なく寄り添って、温かい体温を感じていたかったのだが。
会社の敷地前で、二人はバスを降りた。
斜め向かいのバス停留所を指差して、牧田が淡々と言った。
「あそこから引き返して、駅の近くで時間つぶしてるよ。 大丈夫だとは思うけど、もしトラブルに巻き込まれたら、すぐ呼んで」
「ありがとう。 でも」
嬉しかったが、陶子はためらった。
「あなたのお仕事は?」
「夜に外せないやつがあるが、午後のは明日でもいいから」
「できるだけ早く帰るわ」
約束しながら、陶子はふと思った。 まるで共働きの夫婦みたいな会話だ。 そう気づいたとたん、また頬が熱くなってきたので、陶子は牧田の手を一度ぎゅっと握ってから、門へ小走りに移動した。
陶子が挨拶しながら、いつも通りに通勤してきたので、門衛の勝原は目を見張って敬礼した。
「おはようございます」
「おはようございますっ! もう、あの、大変な目に遭われましたね〜」
「はい。 ようやく決着がつきました。 ご心配おかけしました」
「いやいやー。 いつもご丁寧に」
こういう場合、何と言っていいかわからないものだ。 勝原はもごもご挨拶を返しながら、急いで電動の大扉を開いた。 いつもは横の通用門から入るので、陶子は面映くなった。 それでも、わざわざ開けてくれたものを無視するわけにはいかない。 会釈して通っていった。
陶子の姿を見かけると、受け付けの二人が反射的に立ち上がった。 先輩格の恵比須〔えびす〕がパッと顔を輝かせると、カウンターから飛び出してきて、陶子の手を握って、大きく何度も振った。
「よかった〜! 元気な顔が見れて〜」
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