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≪76≫
やがて、牧田に事情を訊いていた鈴木という刑事が陶子のほうに来て、臼井と交代した。 また初めからいろいろ質問され、陶子は内心へきえきしたが、我慢して丁寧に答えた。
その後、臼井刑事が牧田から戻ってきて、陶子の髪の毛を数本もらい受け、これ以上の危険を避けるために牧田の家にいるようにと言い、二人を自分の車で送ってくれた。
リビングに入り、テーブルにバッグを置いたところで、不意にエネルギーが尽きた。 陶子はソファーに座り込み、足を上げて小さく丸まると、震えながら目を閉じた。
少し後に牧田が入ってきて、陶子の横に座った。 スプリングがぐっと沈み、陶子の体は自然に彼へ寄りかかる形になった。
牧田は、片腕を陶子の背中に回した。 力はほとんど加えず、ただソファーから落ちないように、そっと支えている形だった。
「臼井さん、僕からも髪の毛取ってった」
陶子は驚き、固くつぶっていた目を開いた。
「まだ兄弟だと思ってるのかしら」
「念のためだろう」
そして、牧田はためらいなく臼井に渡したのだ。 彼とは本当に血がつながっていないと、陶子は改めて確信した。
再び目を閉じると、陶子は彼の体の温かさを、しみじみと味わった。
「考えてみたら、私がまだ生きてるのは奇跡ね」
「そうかもしれない」
低い声が返ってきた。 陶子は無意識に、一段と体をすり寄せた。
「一番大きな奇跡は、あなたと紫吹さんが来てくれたこと」
「奇跡じゃないよ。 必然だ」
声はますます低くなった。
「お父さんは、この世の何より君を守りたいはずだ。 だから、僕たちが代わって守るのはあたりまえで……」
声が途切れた。 二人は寄りかかりあったまま、眠りの国に引きずりこまれていった。
先に目を覚ましたのは、陶子だった。
バッグの中で鳴っている、耳慣れた携帯の音に、脳が反応したらしい。
部屋の中は暮色に包まれ、薄暗かった。
牧田は、体を斜めに倒し、陶子の脇腹に顔を埋めるようにして、ぐっすり寝込んでいた。
できるだけ体を動かさずに、陶子はテーブルの上に手を伸ばして電話を取った。
画面を見ると、天藤紫吹の名前が黒々と表示されていた。 だが、携帯を耳に当てたとたん、陶子はさっと青ざめた。
「陶子ちゃん?」
聞こえてきたのは、野太い佐々川の声だった。
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