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≪75≫
110番して国分寺の殺人事件関係者と名乗り、車のブレーキを壊されたと告げると、十分と経たないうちに警察車両が二台連れ立って来た。
調査の結果、ブレーキホースのナットが緩み、フルイドが流れ出ているのがわかった。
かがみこんだ姿勢から起き上がりながら、鑑識係の男性が言った。
「整備不良じゃないですね。 ガバッと開いちゃってるもの。 工具使って細工したんでしょう」
これで、狙われていることがはっきりした。
ぽつぽつ野次馬が増えてくる中で、陶子は顔見知りの臼井刑事に、佐々川常務への疑惑をできるだけ客観的に話した。
舗道に立ったまま、臼井は淡々と聞き、時々メモを取った。
牧田は少し離れた場所で、他の警官に事情を訊かれていた。 その様子をちらりと振り返ってから、臼井はまっすぐに陶子の目を見た。
「あの人、牧田さん、でしたね?」
「はい」
「どこで知り合ったんですか?」
口調が微妙に違う。 陶子は内心緊張した。
「ホームです。 駅の」
「向こうが話しかけてきた?」
「というか、目が合ったらニコッとしてきて」
臼井は視線をそらし、手帳をペンの尻でコツコツと叩いた。
「ぶしつけですけど、恋人ですか?」
「いいえ」
陶子があまりあっさり答えたため、臼井は驚いたようだった。
「ちがう?」
「ちがいます。 牧田さんたちは父の知り合いで、その縁で親切にしてもらっていますけど、それだけです」
「お父さんの……」
臼井の不自然な調子に、陶子は裏を感じ取った。 それで、包み隠しなく話してしまったほうがいいと思った。
「父は十五年前、ご両親を失くした牧田さんたちを後押しすると決めたんです。 行方不明になる少し前だったそうです」
臼井は咳払いした。 陶子の予想通り、驚いている様子ではなかった。 きっと佐々川が、牧田のことを警察に告げ口したのだろう。
「あの、失礼ですが、お父さんの隠し子だったのでは?」
「違います」
陶子は確信を持って言い切った。
「調べていただいたら、すぐわかると……」
そこで肝心なことを思い出した。
「調べると言えば、被害者のマヌエル秦という人、父の親戚じゃないかと思うんですが」
不意に臼井刑事の視線が鋭く変わった。
「なんで被害者の姓名を知ってるんですか? まだ正式発表してませんよ」
「なんでって」
陶子は当惑した。
「インターポールの人が言ってて」
怒って、臼井は息を吸った。
「勝手に質問しに来たの? こっちに相談なしで捜査されちゃ困るな」
自分が叱られているような気になって、陶子はひるんだ。 それでも、言うべきことは言っておかなくてはならない。
「でも、被害者の人は本当に、父に近い感じがしたんですよ。 ええと、DNA鑑定で、繋がりがわかるかと」
「たまたま顔が似てるだけの雇われじゃないのかな」
臼井は、疑わしげな声を出した。
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