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≪71≫
とたんに陶子の意識は現実に戻った。 そして、恐ろしい危機感に襲われた。
「大変。 あなた達も狙われるわ!」
「僕たちが真相にたどりついたことがわかればね」
牧田は落ち着いていた。
「奴は、どうしたらいいか今考え中なんだと思う。 君が小野さんに連絡したのを知ったら、きっとすぐに電話してくるよ」
牧田がそう言い終えるとほぼ同時に、陶子の携帯が鳴った。 陶子が開くとすぐ、三つの頭が同時に電話画面を覗きこむ形になった。
やはり、そこに浮かんでいる名前は、佐々川だった。
鳴りつづける電話を見つめたまま、陶子は切羽詰った口調で牧田に相談した。
「どんなふうに返事したらいい?」
「ためらわないこと。 向こうに話すだけ話させて、君はうんうんと言ってればいいよ」
「どこかに呼び出されたら?」
「先に会社へ行って説明するって言って、逃げちゃえば?」
紫吹が寄り添って提案した。 牧田も賛成だった。
「二人きりで会うのはめちゃくちゃ危険だよ」
「そうね」
まだベルは鳴りつづけている。 陶子はわずかに震える指で、強くボタンを押した。
「陶子ちゃん?」
気づかわしげな声が、いきなり耳に入ってきた。
ためらわないで、と牧田に忠告されたのを忘れて、陶子は絶句した。 会社では常に、藤沢さん、と苗字で呼ばれている。 親戚としての親しい呼び名を聞いたのは、ずいぶん久しぶりのことだった。
非常な努力をして、陶子は何とか返事をしたが、喉がしゃがれてしまった。
「はい」
佐々川の声に、熱が入った。
「やっと連絡してきてくれたんだね。 事情がさっぱりわからなくてね。 なんでお宅に男の人がいたのか、どうして陶子ちゃんの姿がなかったのか。 深い事情があるにちがいない。 陶子ちゃんのほうから話す気になるまで、そっとしておこうと決めてたんだよ。
でも、心配でね、ずっと睡眠不足だ」
「ごめんなさい」
かすれ声で、できるだけ短く、陶子は答えた。 いかにも心配しているような佐々川の弁解を聞くと、腹の底から、自分でも思いがけないほどの強い怒りがこみあげてきて、口を開けるのが苦痛だった。
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