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表紙

透明な絵 ≪70≫


「お友達の家に泊めてもらっています」
 紫吹と牧田の顔を順番に見ながら、陶子は携帯に知らせた。
「家へは一度戻りました。 着替えなどを取りに。 ご心配をかけて、本当にすみません。 明日、定刻に出社いたします。 詳しい報告はそのときにさせていただきます」
「わかりました。 くれぐれも無理をなさらないように。 ではまた明日に」
 訊きたいことが山のようにありそうだが、小野部長は話ができたことにひとまず満足して、電話を切った。


 すぐ、三人が同時に口を開いた。
「会社にいる親戚って?」
 これは紫吹。
「明日はまだ無理だろう?」
 こちらは牧田で、陶子は息を切らせながら早口で打ち明けた。
「佐々川常務。 たぶんあの人だわ。 他に考えられない」


 一瞬間を置いて、牧田が訊いた。
「佐々川常務? いくつぐらいの男?」
 動揺した頭で、陶子は何とか思い出そうとした。
「たしか四十三、か四」
「まだ体力はあるな。 偽者と格闘しても勝てそうだ」
「大きい人よ。 若い頃ボクシングやってたって」
「その人が親戚なの?」
「そう……」
 紫吹に答えながら、陶子は寒々とした気分に襲われた。 がっちりした体躯と穏やかな顔立ちの佐々川は、気分にむらがなく、社内で一目置かれていた。 仕事もできた。 それがなぜ、こんなことを……。




 確たる証拠はない。 だが、陶子を消せば、佐々川がすべての遺産を受け取るのは確かだ。
 社員の連絡をブロックしておきながら、本人が陶子にかけてこないのは何故だろう?
 陶子が考えていると、牧田があることに気付いて、声に出した。
「写真を送ったのが佐々川なら、僕達の存在を初めから知ってたことになるな」








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