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≪69≫
兄妹は、一斉に陶子を見た。
紫吹のほうが、先に口を開いた。
「陶子さん、母方のご親戚います?」
突然の問いに、陶子は戸惑った。
「ええと、母も一人っ子だったから、叔父叔母や従兄弟はいないわ。 お祖父〔じい〕さんのお兄さんは、独身で戦死したって。 それに、お祖母〔ばあ〕さんの弟の子は、うちの……」
不意に陶子の言葉が途切れた。
紫吹の目が、キラッと光った。
「お宅の?」
「……会社に勤めてるわ」
横にいる牧田は、強く息を吸い込んだ。 普段は人なつっこい顔が、別人のように鋭く見えた。
「そう言えば、会社から連絡あった?」
牧田の問いに、陶子は首を振らざるをえなかった。
「ううん」
「変だよな。 こんな大事件が起きてるのに、シカトなんて。 こっちからかけてみないか?」
牧田に促されて、陶子は電話を取り出した。 それから考えた。 会社の誰にかけよう。
やはりここは、直属の上司の小野に連絡すべきだと判断して、陶子は番号を選んだ。
すぐに小野のダミ声が聞こえた。
「社……じゃない、藤沢さん! やっとですか! すごく心配してたんですよ」
「申しわけありません」
陶子はすぐ説明しようとしたが、興奮した小野は一方的に質問の嵐を浴びせた。
「今どちらです? 迎えを出しましょうか? まさかケガなんてしてないでしょうね?」
「してないです。 あの……」
「いやね、何度もこっちからお電話しようと思ったんですが、佐々川常務に厳しく言われましてね。 連絡は自分一本にするから、他の社員は余計なことをしないようにってね」
そこから小野はぶつぶつ口調になった。
「常務の秘密主義には困りましたよ。 何にも教えてくれないんだから」
陶子は、空いているほうの手を胸に当てた。 社交辞令ではなく、小野は本当に心配してくれていたようだ。 嬉しかった。
と同時に、改めて恐怖が心にせり上がってきた。 父の偽者の共犯者が誰か、次第に確信が持てるようになってきたからだ。
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