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≪68≫
紫吹は、それまでほとんど話に口を挟まなかったが、思いついた様子で不意に体を乗り出した。
「犯人は誰か、はっきり言うことはできないけど、なぜ殺人までやったかわかれば、犯人像を絞りこめるんじゃない?」
「共犯者で、動機は仲間割れだろ?」
牧田はあっさり片付けた。 紫吹は目を半分閉じて、チッチッという感じで首を横に振った。
「共犯者は、ふつう分け前を受け取るまで、主犯を殺さないはずよ。 お父さんの偽者は、やっと家に入り込んだところだった。 これからってときに、どうしてぶち壊すの?」
「私に怪しまれたからじゃない?」
陶子が遠慮がちに言うと、紫吹はその言葉に飛びついた。
「でしょ? でもそれなら、犯人たちは協力して、陶子さんを黙らせればいい。 あの偽者は、充分本物で通るわ。 邪魔な陶子さんを消せば、財産を相続できるはずだった」
「偽者は、夜中に私の部屋に入ろうとしたわ」
「うん。 でも、あれは他の目的じゃない? だって、あの広い家の中で、二人っきりになるチャンスはいっぱいあるもの。 始末するのに、わざわざ真夜中にこっそり忍んでいく必要ない」
そうだ、確かに。
しかも、ドアに錠がかけてあると知ると、偽者は一旦去っていった。 あれは、ムラムラとなって、寝ているところを襲おうとしただけなのかも……。
だとしたら、衝動的な行為だろう。
紫吹は、アイデアに意識を集中させながら、言葉を継いだ。
「共犯者は、なぜ陶子さんの家まで来たのか?
すっごく危険じゃない? それまで存在を知られてないのに。 うまく気配を消してたのに、自分のほうから、それも真夜中にわざわざ来るなんて」
「偽者が、裏切ったのか!」
不意にひらめいて、牧田が大きな声を出した。
紫吹はすかさず兄のほうに向き直った。
「そうだよね? 私もそう思った。
偽だと勘付かれた偽者が、逆切れしたんじゃない? それで、南米のギャングらしいこと考えた。 陶子さんに乱暴して、写真撮って脅迫して、財産と両方手に入れる。 それなら共犯者なんか必要ないし、むしろ邪魔」
真っ赤になった陶子を見ないようにしながら、牧田が呟いた。
「電話で、手を切ると言われたんだ、きっと。 それで、犯人は大慌てで駆けつけてきた」
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