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表紙

透明な絵 ≪67≫


 陶子は口に手をやった。 あの男に、どこか親しみを感じたのは事実だ。 だから、怪しいと理性が告げていたのに、家へ招いてしまった。
 あれは、なぜだったのだろう。


 懸命に考えて、陶子は一つの結論にたどりついた。
「あの人……」
「え?」
 牧田が素早く顔を上げた。
「殺された人ね」
「うん?」
「父と同じ匂いがしたの」


 牧田は、すぐには口を開かなかった。
 やがて、額をごしごしとこすると、何度か首を縦に振った。
「そうか……やっぱり親族だな。 それも、ごく近い」
「父は一人っ子だったわ」
「いとこは?」
「女の子がいたらしいけど、子供のときに事故で死んだって」
 牧田の表情が引き締まった。
「お父さんのご両親は健在?」
「いいえ。 私が生まれて間もなく、どっちも亡くなったから」
「じゃ、藤沢家のDNAを持ってるのは、今じゃ君だけなのか」
 DNAか。
 すぐに陶子にはピンと来た。
「被害者のと比べれば、赤の他人か、それとも本当の親戚か、わかるわね」
「うん。 ただのパシリの詐欺師か、または自分の意志で君の家を乗っ取りに来たのか、それもわかる」
 陶子は居住まいを正した。 腹の底に力が入った。
「調べてもらうには、警察に行くしかないけど、牧田さんたちが妙な疑いをかけられないかしら」
「それは心配ない。 殺人のあった夜には、僕は仕事で和歌山に泊まっていた。 紫吹は君と一緒だったし、たとえ夜中に抜け出したと思われても、大の男と格闘できるほどの力はない」
「犯人は、防犯カメラに写ってたはずよね」
 そこが陶子には不思議だった。 どうして特定できないのだろう。
「冬だから、長いコートか何か着てフードでも被ってたら、見分けがつかないんじゃないか?」
 何とももどかしい。 陶子は固く握り拳を作った。








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