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表紙

透明な絵 ≪60≫


 婦女暴行って……
 陶子は絶句した。 こっそり真夜中に陶子の寝室を開けようとしていたあの男。 何を狙っていたのかと思うと、体中に寒気が走った。


 気が付くと、牧田が車の傍を離れて、陶子の横に寄り添っていた。 目の表情が真剣で、強い黒味を帯びてきていた。
「それなら、僕のほうが知ってるかもしれない。 成田のホテルで、あいつは外部に電話してましたよ」
 ケン黒川は、さっと牧田に視線を移した。
「いつ、誰に?」
 牧田はポケットから、紙を沢山挟んだ分厚い手帳を取り出して、ページをめくった。
「十一月十三日の夜、八時四十分ごろです。 相手はわかりません。 名前を呼ばなかったんで」
「でも、話の内容は聞こえたんですね?」
「大体は。 うまく信用させたから、そのうち家へ入り込めると思う、と言ってました」
 陶子は、まじまじと牧田の顔を見つめた。 彼は、捜査官に視線を据えて、陶子と目を合わせなかった。
 黒川のほうは、陶子と牧田を交互に眺めた。
「藤沢さんは、初めて聞く話ですか?」
「はい」
 声が震えないようにするのに、努力が要った。
 牧田は居心地悪そうに体を動かし、声を落として続けた。
「奴は、父親として認めてもらえそうだと喜んでました。 電話の相手が、藤沢さんに信頼されるまで努力するように、と言ったらしくて、ええと、そう、ここだ。こう答えてます。
『安心しろ。 しばらくはおとなしくして、いい親父になってみせる。 計画実行は一ヶ月ぐらいしてからだな』」
 

 陶子は首を下げて、足元に目線を落とした。
 黒川は不思議そうだった。
「電話を盗聴したんですか?」
「直接じゃなく、盗聴器を部屋に入れたんです」
「ほう。 忍び込んで?」
「いや。 本人に持ち込ませて」
 黒川が目をわずかに大きくした。
「参考までに訊きますが、どうやったんです?」
 胸をふくらますと、陶子のほうをチラッと見てから、牧田は答えた。
「あいつ、赤いバラが好きなんです。 女にはいつも赤いバラの花束を贈ってたし、自分でも蕾を胸に挿したりしてました。 だから、バラの茎にマイクロサイズの盗聴器を仕込んで、渡すチャンスを狙ってたんです」
 










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