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≪59≫
陶子が角から出てきたのを真っ先に気付いたのは、牧田だった。
彼は、車のドアから身を起こし、緊張した面持ちで陶子と目を合わせた。 その様子に気付いて、話しかけていた二人の男も振り向いた。
浅黒い顔をした外国人らしい男が、髭をたくわえた口元をほころばせて、陶子に笑いかけた。 茶色の目がくりっと大きく、人好きのする顔立ちだった。
もう一人のアジア系は、きりっとした表情を崩さないまま、離れた位置で立ち止まった陶子に、軽く会釈した。
後者が、押さえ気味の声で呼びかけてきた。
「藤沢陶子さんですね?」
二人はきちんとしたスーツを着ていて、紳士的な態度だった。
それにもかかわらず、陶子は足が前に進まなかった。 二人に囲まれている牧田から、戸惑いと緊張感が伝わってきたからだ。
動かずに、陶子は答えた。
「そうですが、何か?」
すると、男たちは牧田から離れて、近寄ってきた。 陶子は思わず後ずさりした。
最初に話しかけてきたほうが、宥〔なだ〕めるような優しい口調になった。
「怖がらないでください。 ちょっと話を伺いたいだけですから」
そして、上着の内ポケットから写真付きのカードを出して、陶子に見せた。 そのカードには、楕円形の地球マークがついていた。
「インターポール?」
「はい、そうです」
もう一人の外国人風が言った。 顔から予想したより高い声だった。
「わたしはホセ・ヒメネス。 こちらはケン黒川です」
なまりはあるが、流暢な話し方だ。 ケン黒川が話を引き継いだ。
「あなたのお父さんと名乗った男ですが、日本へ入国してから、誰かと接触した様子はありませんでしたか?」
陶子は考え、首を横に振った。 警察にも同じことを訊かれたが、心当たりはなかった。
「私が傍にいるときは、まったく。 電話をかけたりもしてませんし、外に出たとき誰とも話さなかったし」
それから、思い切って尋ねた。
「あの人の正体を、ご存知なんですか?」
ケン黒川は、ヒメネスと一瞬目を見交わした。
「コロンビアとエクアドルで指名手配されている、マヌエル秦〔はた〕という男です。 指紋照合が一致しました」
陶子は、震える息を深く吸った。
「何の罪で指名手配を?」
ケン黒田は両手を開いてみせた。 初めて外国育ちという感じがした。
「麻薬取引と婦女暴行。 殺人未遂の疑いもあります」
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