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≪48≫
警察で渡された番号に電話して今いる場所を伝えてから、陶子はゆっくりベッドに入った。
今日は、気疲れすることばかりあった。 気持ちが高ぶって、よく眠れないだろうと思ったが、それ以上にくたびれていたのだろう。 横になって数秒もしない内に、意識がなくなった。
翌朝、いつもの起床時間にあたる六時に、陶子は目が覚めた。
すぐにベッドから出て布団を整え、洗面所へ行って身支度をしたが、普段と違う物の位置に何度かとまどった。
「ええと、歯ブラシ、歯ブラシは……ああ、ここだった」
合間に色気のない大あくびが出る。 薄ぼんやりした寝起きの顔を鏡で眺めて、陶子は溜息をついた。
「もてないわよね〜、これじゃ。 自分でもバカみたいに見える」
そう呟く心の中には、かすかな痛みが潜んでいた。 親切心だけで庇ってもらったとは思いたくなかった。 初め積極的に近づいてきたのは、牧田のほうだったじゃないか。 言葉は悪いが、押し倒さんばかりの勢いだったのに。
それが、二人きりになると、おでこへのキスだけとは……。 自信を失いそうな結果だった。
半時間かけて身奇麗にして、下へ降りていくと、リビングに立ってパーコレーターをかけていた牧田が振り返った。 グレイのタートルシャツに紺無地のカーディーを着ていて、学生のような感じだった。
「おはよう」
「おはようございます」
小声で返事をしてから、陶子は言葉を継いだ。
「早起きね。 たしか出かけるのは九時だと」
「うん。 でも、よく眠れなくて、えいって起きちゃった」
そう言って、牧田は少年ぽい笑顔になった。
「若い女性を泊めるの初めてだからさ」
「そうなの?」
「残念ながら。 女の子ナンパするより、野原や山なんかを歩き回るほうが性に合ってるんだ」
「でも、客間には入り用なものがみんな揃ってたけど? それこそホテルみたいに」
「ああ、あれは妹のおかげ。 ときどき来て、いろいろきちんとしてくれる」
なるほど。 陶子は朝っぱらからすっきりした顔の牧田を眺め、妹も美人なのだろうかと想像した。
「もうじき誕生日の?」
「そう。 一緒にプレゼント買いに行く約束したよね。 日曜までに犯人が捕まって、自由に外出できるといいね」
とたんに家へ帰れない理由を思い出し、陶子は固い表情になった。
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