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≪42≫
どうして?
不思議だった。 つい最近知り合ったばかりの人だ。 どうして、そこまで尽くしてくれるのか。
でも、訊けなかった。 予想と違う答えが返ってきそうで、ためらいが先に立った。
代わりに、陶子は牧田の腕に両手を置き、心を込めて答えた。
「ありがとう。 こうやって傍にいてくれるだけで嬉しい。 私って友達が少ないんだなってつくづく思った」
「人に頼らないからだろう?」
あやすような口調で、牧田は言った。
「自分でなんとかしようと頑張っちゃうんだ」
「ほとんど何もできないんだけど」
陶子は溜息をついた。 自分の体が小さく縮んだような気分だった。
牧田は、再び陶子を抱き寄せ、軽く揺すった。
「警察に全部話したら、気が楽になるよ」
目を閉じたまま、陶子は低く笑った。
「それって犯人の自白みたい」
「いや、そういう意味では」
自分の言葉を思い返して、牧田も苦笑いした。
「ほんとだ。 そんなふうに聞こえたらごめん」
「いいの。 わかってるから」
「決心ついた?」
「ええ、もう大丈夫」
牧田は一つ大きく頷き、車を再起動して、調布駅近くの警察署に回した。
受け付けに行くまで、牧田は陶子の手をしっかり握っていてくれた。
おかげで、陶子は落ち着いて名前を告げ、出頭した理由を話すことができた。 すぐ奥からスーツ姿の若い男性が出てきて、陶子を会議室のような部屋に案内した。
しばらく待たされてから、中年の男性がもう一人入ってきて、臼井〔うすい〕と名乗った。 陶子は、前に座った二人の刑事に、早朝の電話から始まった信じられない出来事の数々を、気を配りながら順を追って語った。
「それで、父親と名乗った被害者は、成田のホテルであなたにパスポートを見せ、ペルーから来たと言ったんですね?」
「はい。 ペルーで農場をやっていると言いました。 私の誕生日を知っていましたし、顔も父そのもので、嘘とは思いませんでした」
「被害者は整形手術していたようです」
刑事は、さらりと言った。
「顎と歯を直していました。 つい最近だそうです。 もともとあなたのお父さんに似ていたのは確かでしょうが」
陶子は、以前から心の奥底でうごめいていた恐れから、もう目をそらせないのを悟った。 前にいる上品な娘の顔が次第に青ざめていくのを、臼井刑事は黙って見守った。
陶子は口を開けたが、からからに乾いた感じで、声がなかなか出てこなかった。
「あの……父の顔そっくりに手術したんですよね」
刑事は無言のままだった。 陶子は息が苦しくなり、胸をかきむしりたくなった。
「本物の父は、どうなったんでしょう……!」
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