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≪41≫
『父』から電話が来たのが、先週の金曜日。
まだ一週間も経っていない。 なのに、これだけ様々なことが起きた。
牧田の胸にもたれていると、陶子は自分がどんなに疲れていたか実感した。 体は十分休養を取っている。 でも、心は片時も休まらなかった。
目を固くつぶったまま、陶子はわずかに身じろぎした。 すると、牧田の腕に力が入り、安心させるように抱きしめてくれた。
無言のまま、数分が過ぎた。
不思議な時間だった。 野生動物の子供になって、薄暗い洞窟の奥で母親の懐に丸まっているような感触。
そういえば、ずいぶん長く人に抱かれていない。 寄り添って温かみに触れるだけで、こんなに気持ちが落ち着くことを、すっかり忘れていた。 母は、父が消えて以来、仕事に精力をつぎ込み、娘とゆっくり過ごす時間がなかった。 いや、もしかすると触れ合いを避けていたのかもしれない。
やがて、遠慮がすっかり消えた。
陶子は知らぬ内に手で牧田の胴をたどり、腕を背中に巻きつけていた。 彼の体はがっしりと硬く、腹は平らで、日向ぼっこをした後のような乾いた心地よい匂いがした。
「マフラー、使ってくれてるんだ」
低い声が響き、指が陶子の襟元を撫でた。 コートの下に巻いてきたマフラーが、牧田のくれたものだったのを、陶子はぼんやりと思い出した。
「これが一番暖かいから」
もう車を出して警察に行かなきゃ、と思ったが、動きたくなかった。 快い小さな空間で、いつまでもぼうっとしていたかった。
「甘えちゃって、ごめんなさい」
そう囁くと、大きな手のひらが頭に置かれた。
「こんなの甘えのうちに入らないよ」
次いで、牧田の頭が降りてきて、陶子の髪に頬ずりした。
「君はしっかりしてる。 筋が通ってるって感じだ。 なれなれしくできない雰囲気だったが、少し距離が縮まったかな」
「あなたは初めから、ぐんぐん近づいてきたじゃない」
「僕は人見知りしないヤツだから」
ひとごとのようにあっさり言うと、牧田は陶子の肩を柔らかく握って引き起こし、顔を向き合わせた。
「君は僕が守る。 それだけは、はっきり言っとく」
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