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≪38≫
「私、警察へ行く」
唐突に言われて、紫吹はぎょっとした顔になった。
「警察? ちょっと待って……」
「あなたの名前は出さないわ。 町を歩き回っていたことにする」
「でも……」
「ついていってくれる人がいるの。 電話かけさせて。 お願い」
紫吹は髪の毛に手を入れ、じれったそうに掻きむしった。
「用心しなきゃ。 もうちょっと様子見てからにしない? 捜査がどこまで進んでるか、ニュースでやってないかな」
二人はCSのニュースをじっくりと見た。 それでわかったのは、陶子の部屋にも捜索が入り、散らかっていて金目のものが無くなっているのが強調されていることだった。
「誘拐されたと思われてるのかな」
画面を食い入るように見ながら、紫吹が呟いた。
「ねえ、窓から逃げ出す姿を防犯カメラに撮られてないの?」
「出る前に電気を切って解除したから、写ってないはずよ」
「たしか、カメラは四台あるって言ってたでしょう?」
「ええ」
「どことどこについてるの?」
「玄関と裏口、それに母と私の寝室の前に」
紫吹は考えた。
「じゃ、裏口から入ってきた犯人は、ばっちり写ってるはずよね」
そうだ、そのはずだ。
マスコミ発表はないが、警察はとっくに防犯装置に気付き、中の録画に目を通しているにちがいない。
ニュースの口ぶりでは、陶子を犯人とみていないようだ。 ということは、写っていた犯人は、男?
陶子は口元を引き締め、ポケットから携帯を出した。
「やっぱり電話する。 ここの住所教えてくれる?」
紫吹はたじろいだ。 やはり巻き込んではいけないと思い、陶子は次の提案をした。
「じゃ、表通りに出て、目立つ建物を探すわ」
「そこまで一緒に行く」
紫吹はピョンと立ち上がり、コートを取りに行った。
紫吹が出かける支度をしている間に、陶子は窓に近づき、牧田にかけて、小声で会話した。
「さっきは急に切ってごめんなさい。 やっぱり警察に出頭することにした。 今、調布のどこかにいるの。 これから表通りに出るところ」
「すぐ行くよ。 通りでバス停を見つけたら、駅の名前を言って、そこで待ってて。 調べてすぐ飛んでいくから」
牧田の声は、しっかりしていて頼もしかった。
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