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≪34≫
閉じ込められてる!
外から鍵をかけられているのは、間違いなかった。 陶子は額に手を置き、指でこめかみを揉んで頭をはっきりさせようとした。
天藤紫吹〔てんどう しぶき〕は、いったい何者なのか。 敵か、味方か。
ここで判断を誤ると、大変な結果を生みそうだった。 できるだけ気持ちを落ち着けて、陶子はこれまでのことを思い返した。
紫吹は、霊感があるようなことを匂わせている。 陶子に危機が迫っているのを感じて、バイクで駆けつけてきたと言った。
だが、五千円寄付してもらったぐらいで、普通そこまでするか?
陶子は狭い玄関で向きを変え、長方形の居間を見渡した。 きちんと片付いているが、遊びがない。 十代の女の子の住む部屋って、普通はポスターや絵や花などが飾ってあるものだ。 小さな置物、ぬいぐるみ、かわいらしいクッションとかも。
紫吹の正体を知りたい。 陶子は居間に戻り、積み重ねてある本や、小さな棚を探し始めた。
あらかじめ予想した通り、個人的なものは何一つなかった。 手紙や領収書、ダイレクトメールの類も。 たぶん紫吹用の寝室に行けばあるのだろうが、そこはしっかり鍵をかけてあった。
さわったことを悟られないように、陶子は本などの位置を確かめ、元の場所に戻した。
やっぱり何もなかったなぁと失望しつつ、屈んだ姿勢から背中を伸ばしたとき、近くにあったカーテンに肘が触れて、少し開いた。
窓枠に何かが載っていた。 それが自分の携帯電話だとわかって、陶子は目を見張った。
急いで手に取ると、四角い付箋紙が張ってあるのに気付いた。 その紙には、かわいらしい丸っこい字で、こう書いてあった。
『藤沢さん
この電話を見つけても、絶対にかけないでください。 持っていこうかと思ったのですが、ドロボウしたくないので止めました。
これは、藤沢さんを守るためです。 信じてください。
紫吹』
ドロボウしたくない―― この一言で、ふりこのように揺れ動いていた陶子の心が、不意に静まった。
確かに、紫吹は泥棒ではない。 現金とカードで分厚くなっている陶子の財布に、見向きもしなかった。 彼女は道徳観念が強いのだ。 不器用なほど。
こうやって閉じ込めていったのも、理由があるのだろう。 陶子は覚悟を決め、グレイの小型冷蔵庫からマフィンの残りを出してきて、テーブルに置いた。 そして、再びテレビをつけ、ニュース番組を探した。
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