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表紙

透明な絵 ≪22≫

 二種類のメインティッシュを陶子より早く食べ終わると、牧田はコーヒーを頼んで、バッグから手帳を取り出し、チェックした。
「明日は火曜日だから、ええと……天気予報は何て言ってた?」
 不意に問いかけられて、陶子は目を上げた。
「さあ、知らない」
「こっちで調べるか」
 携帯をググッて、彼は表示を見つけ出した。
「曇りらしい。 微妙だな」
「また撮影に行くの?」
「どうかな。 朝になってみないと」


 牧田はコーヒーを飲みながら、陶子がチキンのクリームソテーを食べ終わるのをのんびり待っていた。
「ねえ、週末なにか予定ある?」
 は?
 陶子は少し用心した。
「庭木を剪定してもらうの。 年末だから」
「じゃ、家にいなくちゃいけないんだ」
 牧田はがっかりしたようだった。
「買い物に付き合ってもらえないかと思ったんだけどな」
「買い物?」
「うん。 妹へのクリスマス・プレゼント。 君より少し年下で、体型が同じぐらいなんだ。 どんなものが妹に合うか、わかんなくて」
「優しいのね」
 兄貴か……。 子供のとき、すごく欲しかった。 父を失ったことで、心無い言葉を投げつけられたとき、兄がいれば庇ってもらえるのに、と何度か思った。
 陶子のためらいを見て取ったらしく、牧田はいくらか体を乗り出した。
「土曜か日曜、どっちか空かない? 半日付き合ってくれたら、メシおごる」


 陶子は、ゆっくりフォークを置いた。
 熱心に見つめる目は深いブラウンで、白目との境がいくらか黒ずみ、くっきりと浮き立っていた。 顔の線はシャープだが、こけているほどではなく、頬骨は高めで、鼻と口は整ったきれいな形だ。
 いわゆる美男ではないにしても、牧田は魅力的な顔立ちだった。
 陶子は、彼の顔を好ましいと思った。 風変わりな馴れ馴れしさも、嫌いではない。 太陽の明るい時間帯に、半日買い物に付き合って、何か悪いことがあるだろうか。
「日曜日でいい?」
 訊き返すと、一瞬間を置いて、牧田の顔に笑いが広がった。 目が糸のように細くなる本物の笑顔だった。
「オッケー? よっしゃ!」








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