表紙 目次 文頭 前頁 次頁
表紙

手を伸ばせば  その295



 負けずにジリアンも姉たちに飛びつき、三人は一塊になって強く抱き合った。
 ようやく腕がゆるんだとき、感激屋のマデレーンは目を真っ赤にうるませていた。
「やっと会えた! 博覧会のとき以来よ。 信じられないわ。 こんなに長く会えなかったなんて!」
 ヘレンは、少し日焼けした手を差し伸べて、マデレーンの濡れた頬を撫でた。 それからジリアンの肩にも触れて、ふたたび抱き寄せた。
「心配させたわねぇ。 私も心配だった。 特にジリーのことが」
 ジリアンは小さく頷き、ふざけて姉を睨んでみせた。
「そうそう、まさにその通り。 私にあんな人をお土産に残していくから、こっちまで駆け落ちしなくちゃならなくなったわ」
 マデレーンは笑ったが、ヘレンは真剣に後悔しているようだった。
「本当に大変なことだったわね。 ジェラルド自身もひどい人だったけど、まさかキャロラインが殺人者だなんて」
「だからお姉さまが駆け落ちしたのも正解だったのよ」
 ジリアンは真面目になって応じ、横で静かにたたずんでいるヘレンの夫のゴードン・クレンショーに顔を向けた。
「前に街でお見かけしましたね。 ヘレンの末の妹のジリアンです」
 ゴードンは微笑み、気持ちのいい声で答えた。
「初めまして、というべきでしょうか。 披露宴へのご招待ありがとう」
「こちらこそ来てくださって嬉しいです」
 おくればせながら、ジリアンは膝を折って挨拶した。 マデレーンも妹にならった。
 ゴードンは帽子を取って、きちんと義理の妹たちに頭を下げた後、ヘレンが抱き上げた金髪の息子を愛しそうに受け取って、二人に紹介した。
「ディコンです。 妻に似ているとは思いませんか?」
「ええ、手紙に書いてあった通り」
 マデレーンが息を弾ませ、ジリアンはきょとんとしている幼児の顎に手をやって、笑わせることに成功した。


 夕方には、新しい食器が裏口から搬入された。 明日には寝具の補充が来るし、明後日はいよいよ宴の前日なので、家中を飾る花々が山のように届く予定だった。
 屋敷の内部は、まるで戦場だった。 いろんな服装の使用人や運搬人が行き交う中、仕立てあがったジリアンのドレスが、満を持して大きな箱で運び込まれた。
 宴は二日間に渡る予定で、舞踏会は二度開かれる。 酒をこぼしたり、どこかが破れたりしたときの用心に、着替えも必要だ。 ということで、一着何十ギニーもする最高級のドレスが、五着も作られることになった。
 服が箱から出されるたびに、マデレーンは目を丸くして、いちいち感心した。
「うわー、このレース、ベルギーのでしょう? 私もこういうの買おう。 ピンクがいいな」
「マディったら、さっきから欲しい欲しいと言い通しね」
「だってこんなに素敵だし、今は買えるんですもの。 お姉さまも買えば? その綺麗な髪と同じ色にしたら、すごく似合うわよ」
 ヘレンは首を振って引き下がり、荷解きをしているジリアンに小声で言った。
「ハーブはマディに少し我慢を教えないと。 いくら大きなお屋敷に住んでいても、物だらけになって狭くなるわよ」











表紙 目次 前頁 次頁
背景:kigen
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送