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その291
ジリアンとパーシーの披露宴に、ハーバートとマデレーン夫妻、それにラムズデイル一族は当然出席するとして、ヘレンとゴードン・クレンショー夫妻を絶対招待してくれ、と、ジリアンはパーシー共々、両親に頼んだ。
デナム公爵は、無表情ながらも嫌とは言わなかった。 だが最初のうち、母のジュリアは断固としてはねつけた。
「駆け落ちして他所の国へ逃げた上、手紙一本よこさないのよ。 家名の穢れだわ!」
「私だって駆け落ちしたのよ。 たまたま相手が貴族の御曹司だと後でわかっただけで、初めは商人の次男坊のために家を出たの。 クレンショーさんはリヴァース子爵だから、ずっと格上じゃない。 それに、おじさんのレインマコット侯爵と仲直りできたそうだし」
ジリアンが自分より情報を知っているというので、ジュリアはいっそう腹を立てた。
「そんないい加減な話をどこで聞いたの? あてにならないわよ、噂話は。 侯爵の跡継ぎなら、とっくに胸を張って社交界に戻ってきてもいいはずじゃないの」
それはヘレンがお母様に気を遣って、と反論しようとして、結局ジリアンは言い出せなかった。 理屈が通る母ではない。 まして、妻を侮辱されたクレンショーが怒っていて、ジュリアのほうから出入り禁止を解かなければ、絶対に公爵家の敷居はまたがない、と言っていることなど、話せるわけがなかった。
ジリアンは、春学期を休学して屋敷にいるフランシスのところへ行き、母の頑固さを切々と訴えた。
ジリアンとしては、気の合う兄に(暇人として)愚痴を聞いてもらうぐらいのつもりだった。 だが、フランシスには妹の知らない切り札があった。 だから、彼はさっそく、母子の衝突のあった当日の夜に、ジュリアを捕まえて客間の一つに押し込んだ。
三十分ほど経って、部屋から出てきたとき、ジュリアは妙におとなしくなっており、フランシスは平然としていた。
その日、晩餐の席で、ジリアンは母がさりげなく切り出した言葉を聞いて、背もたれの高い重厚な食堂椅子を引っくり返しそうになるほど驚いた。
「レインマコット侯爵は、だいぶ弱っていらっしゃるらしいわ」
「そうかい。 今年の冬は一段と寒かったからな」
雉肉を口に入れた公爵は、適度に柔らかかったので満足して、機嫌よく妻に相槌を打った。
ジュリアは用心深く長いテーブルをざっと見渡してから、爆弾宣言をした。
「それで、どうやら甥のゴードン・クレンショーの勘当を解いたらしいの。 これでヘレンの婿も一応高位の貴族になれるわ。 ジリアンはいわずもがなだし。
後は欲のないハーバートをせっついて、従のつかない男爵にでもなってもらえば、わが家は手のかかる三人の娘を、なかなか立派に嫁がせたと褒めてもらえるに違いないわね」
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