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手を伸ばせば その277



 ベージュと白で統一された優雅な喫茶室に入ると、キャロライン夫人は度胸を据えた感じで、さっさと椅子に腰を下ろした。
 すぐに公爵がジリアンを伴って入ってきた。 いつもは温厚で落ち着いた表情なのだが、今は怒りで頬が赤らんでいた。
 地味な服をまとい、顔に作り皺を描いたキャロラインをじろりと睨んでから、公爵は押さえた口調で息子に尋ねた。
「正確に話せ。 何があった?」
 フランシスは、心配そうなジリアンと目を見交わし、簡潔に答えた。
「この人が、シモンズ夫人に変装して、飲み物に毒を入れたんです」
「証拠は?」
 キャロラインが椅子から身を起こし、鋭く反論した。
「私はフランスのモンテスパン侯爵夫人じゃない。 黒魔術を使ったり、毒薬を持ち歩いたりしてはいないわ」
「あなたはもっと計画的なのよ」
 緊張と憤りで、ジリアンは珍しく尖った声で言い返した。
「ジェラルドが決闘を申し込んだのは、パーシーに傷を負わせるため。 その後でストリキニーネを飲ませて、傷から破傷風を起こして死んだと思わせたかったのね。 症状がよく似ているから」
「まあ、なんて想像力が豊かなんでしょう」
 キャロライン夫人は、からからと笑った。
 ジリアンは構わずに、パーシーの枕元でずっと考えていた筋書きを語った。
「でも、企みはうまくいかなかった。 パーシーとハーブの仲の良さを、計算に入れていなかったから。
 パーシーがいつものようにコーヒーを頼むと思って、厨房では準備していた。 あなたは本物のシモンズさんが作ったお菓子を配りながら、隙を見てカップの中に毒を入れた。
 男性たちの中でコーヒーを飲むのは、普通はパーシーだけだと調べていたのね。
 でも今日は違った。 濃いコーヒーを飲みすぎだと私が言ったから、パーシーは一口か二口で思い出して止めた。
 それを見て、たまたまお酒を飲みたい気分じゃなかったハーブが、残すなら僕にくれとカップを受け取ったんですって。 二人は兄弟として育って、とても結びつきが固いの」
 いまいましげに、キャロラインの唇が一瞬だけ痙攣した。
「これで計画は崩れてしまったわね。 名医の先生がすぐ往診してくださったのも、本当に運が良かった。
 キャロラインおばさま、パーシーとハーブは元気を取り戻しました。 あとニ、三日は静養していたほうがいいけど、一週間もすれば普通に暮らせるようになるそうです」
「そんなこと、わざわざ聞かせてくれなくてもいいわ」
 平静を装って、キャロラインは答えた。
「皆さん私を疑っているようだけど、毒を入れた証拠がなければ捕まえても無駄よ」
「証拠はきっと、すぐ見つかるわ」
 ジリアンも冷静に応じた。
「あなたは私とばったり会ってしまって、慌てて殴り倒した。 その後、ばれそうになった時のために閉じ込めておいた本物のシモンズさんを殺して、罪を背負わせようとした。
 つまり、あなたはシモンズさんの家に、残った毒を置いてきたはずなのよ」











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