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その273
フランシスは、まだ半分ぼうっとしている妹に速度を合わせて歩こうとやってみたが、すぐ面倒くさくなって、えいやっと抱き上げて厨房に急いだ。
その短い間に、フランシスは矢継ぎ早に質問を発した。
「パーシーたちは、菓子を食べて気分が悪くなったのか?」
「そうじゃないわ。 毒はストリキニーネで、すごく苦いの。 お菓子じゃごまかせないから、コーヒーに入れたんだと思う」
「目的はパーシーだろう? なぜハーブまで倒れたんだ? ポットに入れたんじゃ誰が飲むかわからない。 ずいぶんずさんな計画じゃないか」
「何か手違いがあったのよ、きっと」
そろそろフランシスの息が切れかけたところで、厨房の入り口に着いた。 フランシスは、妊娠中の妹を気遣って、いつもより優しく廊下に下ろして立たせると、勢いよく中へ入っていった。
若主人を見て、たちまち料理人やメイドたちが立ち上がって礼をした。 若い娘たちは頬を紅潮させている。 フランシスは明るい上に思いやりがあるので、雇い人の少女たちの憧れだった。
「やあ、諸君。 シモンズさんが久しぶりに手伝いに来たんだってね? 挨拶したいんだが、ここにいるかい?」
「いいえ」
代表してメイトランド夫人が答えた。
「十分ほど前に帰りました。 長く家を空けると心配だと言って」
それで出てきたところを、ジリアンと鉢合わせになったのだろう。 つじつまが合う。
フランシスはすぐ、シモンズの現住所を尋ねた。 すると、下働きのジャニスが遠慮がちに申し出た。
「シモンズさんは特別に、庭外れの森に住むのを許されているんです。 あの、よかったらご案内します。 いいですか、メイトランドさん?」
「もちろん、若様のお役に立つなら」
メイトランド夫人は、威厳を持って答えた。
フランシスが簡単に事情を話し、まだ元気のないジリアンを厨房に残していったので、世話焼き軍団はどっと彼女を取り囲み、頭を冷やしたりエプロンで煽いだり、はてはハーブ茶やらジンジャークッキーやら出してきて、思う存分甘やかした。
それがフランシスの狙いだった。 気配りの必要な妹を彼女らに任せて、身軽になったフランシスは、ジャニスと共に、帯のように伸びて隣家との境界線になっている森へ急いだ。
二人はどちらも足が速かった。 それが結果的に、シモンズ夫人の命を救うことになった。 森の隅にあって、短い小道を通じて表通りに出られるようになっている木造りの家からは、ただならぬ音が聞こえていた。 ガチャン、バリンという陶器の壊れる音と、しわがれた悲痛な声が。
「あっちへ行け! 悪魔、近寄るな!」
ジャニスが押し殺した声で叫んだ。
「シモンズさんです! 誰かがシモンズさんを襲ってる!」
一刻の猶予もない。 フランシスは、とっさに壁際に積んであった薪を手に取ると、小さなドアの取っ手を掴んで、一気に開いた。
部屋は二つしかなかった。 玄関の戸を開いてすぐの居間兼食事室と、カーテンで仕切った奥の寝室だ。 台所コーナーは居間の右側にしつらえられていた。
そこの戸棚の前に、シモンズ夫人が張りついていた。 片脚を椅子に縛られて、ずるずると床を引きずっていたが、両手は自由で、水差しと大皿を片手ずつに持って、前にいるもう一人の『シモンズ夫人』に投げつけようとしていた。
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