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表紙

手を伸ばせば その272


「ジリー! ジリー、どうした!」
 肩を強く揺すぶられて、ジリアンは顔をしかめ、顔中が皺になるほど固く目をつぶった。
 頭がガンガンする。 全身がしびれたように重い。 なのに兄のフランシスは、容赦なく顔を叩き、腕を引っ張った。
「やめて、痛い!」
 強く押し戻したつもりだが、フランシスはひるまなかった。 それどころか、声をきつくして、耳元で怒鳴った。
「起きろ! 床に倒れてたんだぞ! 具合が悪いのか?」
「ちがうわよ」
 苦労して薄く目を開けたとたん、どっと光が瞼の隙間から入り込んできて、刺されたような痛みが走った。
「誰かに後ろから殴られたの」
「何てことだ!」
 フランシスの大声も、耳を刺激して頭痛をひどくする。 ジリアンは、彼の腕に掴まって、ようやく上半身を起こした。
 彼女は、厨房近くの小部屋にいた。 廊下で気を失っていたのを、フランシスが抱き上げてソファーに運んだのだろう。
 兄は、ジリアンの後頭部を心配そうに調べていた。
「傷はないようだ。 角のない物で殴ったんだな」
「逃げるための時間稼ぎね」
 自動的にそう呟いた後、ジリアンは自分で自分の言ったことにハッとした。
「まあ、どうしよう! 犯人はまだ屋敷の中にいたんだわ」
「犯人?」
 フランシスは、よく事情が呑みこめない様子だった。
「いったい何の犯人だい? 僕は呼び出しがあって街へ出て、今戻ってきたところなんだ。 庭から入ったから、まだ誰にも会ってないんだが」
 兄が説明している間に、ジリアンは足を床に下ろした。 まだ目まいがして、窓や壁が揺れて見える。
「じゃ、ビリヤードには参加してなかったのね」
「初めはいたが、すぐ出かけた」
「帰ってきたばかりで悪いんだけど、一緒に来てくれる? なんだかふらふらするの」
「殴られたんだぞ! じっとしてろよ」
「そうはいかないのよ。 シモンズさんに事情を訊かなくちゃ」
「シモンズさん?」
 懐かしい名前に、フランシスは眉を吊り上げた。
「おいジリー、頭を打って幼児返りしたのか? シモンズさんならとっくに引退して、どこかで呑気に暮らしてるだろう?」
「それが違うの。 お菓子を持って手伝いに来たのよ。 そんなときに、ハーブとパーシーが毒殺されかかったの」


 きりっとしたフランシスの顔が、あまりの驚きによじれた。
「毒殺……?!」
「そう。 普段と違うのは、シモンズさんが来たことだけ。 だから、彼女から話を聞かないと」
「その通りだ」
 唐突にフランシスは顔を上げ、ジリアンを助け起こした。
「急ごう。 シモンズさんはどこだ?」












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