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その269
豪語した通り、パークスは五分もしないうちに、六本もの立派な傘つきフライ・アガリックを両手に握って、飛ぶように庭を横切って帰ってきた。
すぐにマニング医師の指導で、煮出し作業が始まった。 小さめの鍋に水を入れてきのこを茹で、汁を溶け出させるのだ。 初めから毒きのこだとわかっているので、役目を任せられたジャニスはおっかなびっくりで、できるだけ手を伸ばして煮汁をかき混ぜていた。
五分も煮ると、汁が薄い茶色になった。マニングはその汁を二つの陶器の水差しに移し、急いで緑の間に戻った。
ジリアンも、彼の後を追った。
医師は、まず症状の重いハーバートのところへ行くと、口を開けるよう頼んだ。
律儀なハーバートは、すぐ言われた通りにしようとしたが、ちょっと唇を動かしても痛むらしく、低い呻きを発した。
水差しからスプーンで汲み出し、むせないように口の中にたらしながら、マニング医師はジリアンに呼びかけた。
「奥様はしっかりしていらっしゃる。 ですからお願いです、これと同じことをご主人にしてあげてください」
ただちにジリアンはもう一つの水差しを手に取って、パーシーの枕元に身を寄せた。
「さあ、これを飲んで。 痛むでしょうけど、きっと効くわ。 少しすれば魔法のように苦しさが消える。 だから飲んでね、大事なあなた」
パーシーの唇が震えた。 それから、牡蠣〔かき〕の殻をこじ開けるほどの努力で、徐々に開いた。
その後の半時間、部屋にいる人々は皆、心の中で懸命に祈った。 おそらくマニング医師自身も神頼みをしたことだろう。
最初に兆しを見せたのは、やはり症状がいくらか軽いパーシーの方だった。 固く目を閉じ、両手を膝で握り合わせて念じていたジリアンは、その手に何かが触れたので、パッと目を開いた。
載ったのは、パーシーの手だった。 指先でジリアンの手の甲を撫でながら、彼はかすれた声で言った。
「楽に……なった。 まだ筋肉が強ばってるが、さっきの痛みにくらべれば天国だ」
ジリアンは、言葉を忘れてパーシーの顔を見つめた。 やがて、それまでこらえていた涙が一気に溢れ、滝のように流れて頬を濡らした。
少し離れたソファーの横では、パーシーの回復を見たマデレーンが必死にハーバートを覗きこんでいた。
「ハーブ、ハーブ、目を開いて。 動かなきゃだめよ。 そのまま固まっちゃわないで!」
呼びかけられてもハーバートは反応しない。 マデレーンが逆上しかけたとき、マニング医師が嬉しそうな吐息をもらして、彼女に話しかけた。
「見てください。 頬に血の気が戻ってきました」
そして、首筋に指を置いて脈を確かめた。
「しっかり打っている。 どうですか? 触っても、もう痛くありませんか?」
ハーバートは、薄目を開けた。
それから、僅かに口元を動かして、微笑みに近い表情になった。
「奇跡ですね、先生。 痛みが取れた」
「ハーブ! よかった!!」
マデレーンが悲鳴に近い声で叫んで、ハーバートに身を投げた。 あわてて医師が彼女をそっと引き戻した。
「奥様、今は安静にしてあげてください。 猛毒と闘って、ようやく勝ったところですから」
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