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手を伸ばせば その261


 男たちはいろんな物を飲みながら四時間以上討論していて、晩餐のために部屋を出てきたときには、皆疲れた顔になっていた。
 ジリアンは、食事室の近くにある小さなほうの居間で、マデレーンに教わって新生児用のベビードレスを裁断していた。 少しでも気を紛らわせたくて始めたのだが、男性陣の長い相談がやっと終わったと聞いて、急いでドレスを保護する上っ張りを脱ぎ、ドアを開いた。
 廊下を急ぎ足で進んでいくと、正装の男性たちが図書室を後にして、三々五々移動しはじめたところだった。
 列の中ごろにいたパーシーは、すぐジリアンを見つけて向きを変え、近づいてきた。
 ジリアンは不規則に鳴る胸を抑えて、夫に小声で尋ねた。
「どうなったの?」
 パーシーは顎を撫で、呟き返した。
「プリムローズ・ヒルで、金曜日の朝六時から。 武器は拳銃だ」
 とたんに、ジリアンは貧血を起こしそうになった。
 こんなことは、生まれて初めてだった。 度胸は人並み以上で、いつも向こう見ずだと言われ続けてきたが、大事な人に命の危険が迫っていると聞くと、とても平常心ではいられなかった。
 よろめいたジリアンに、パーシーの長い腕が巻きついた。
「おっと。 つわりかい?」
「違うわ。 赤ちゃんのお父さんが心配なのよ」
「僕は大丈夫だ。 少なくとも、致命傷を負わされることはない」
 パーシーは妻を抱きかかえたまま、確信を持って答えた。
「殺したら、ジェラルドは永久に侯爵には戻れない」
「よけい怖いわ。 彼が何を考えているのかわからなくて」
「お父上が、相手の介添え人と会って、立会いの上で銃を買ってくださるそうだ」
「悪い仕掛けはできないわね」
「そうだ」
 低く話し合っている二人の傍に、フランシスが寄ってきた。
「なあ、愛しの妻に決闘の細かいことまで打ち明けるのは問題だぞ。 心配させるだけじゃないか」
「知らなかったら、もっと心配だわ」
 ジリアンは強く兄に言い返した。
「決闘申し込みの現場に、私もいたんだから」
「そうだったなあ。 かわいそうなジリー」
 フランシスは、そっと妹の頬に手を当てた。
「二人で出かけたところを、わざと狙ったんだろう。 振られ男の復讐だな」
 軽く頬をさすった後、フランシスは気分を変えて明るい声を出した。
「さあ、晩飯だ! たっぷり食べて、英気を養おうぜ」











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