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表紙

手を伸ばせば その260


 夜になって、ジェイムズ・ラムズデイル(ハーバート達の父親)までがロンドンにやってきて、デナム邸の寄り合いに加わった。
 ジェイムズは、商人仲間からジェラルドの悪い評判をたくさん聞き込んでいた。
「相手が弱い立場だと見ると、掛け金を平気で踏み倒すし、投資の出資金を使い込んだこともあるそうです。 道義心などまるでないと言われています」
 デナム公爵はあきれて、額に手を当てた。
「デントン・ブレア一族がジェラルド追い出しにかかるのも当然ですな。 こう憎まれていては、そのうち伝統の屋敷に火をつけられかねない」
「でも、そんなにケチケチしてどうするんでしょう? あいつは賭け事が好きじゃないから、金に困るはずはないし」
 フランシスが不思議に思って訊くと、ジェイムズは顔をしかめて答えた。
「噂では、政界工作のためだとか。 あの男の野望は、いつかイギリスのトップに立つことなんです」
「まさか、首相になりたいなんて……?」
 フランシスは喉を詰まらせ、公爵は額をぴしゃっと叩いた。
「これほど人望のない男がか!」
「野心には限りがないですからね」
 嘆かわしげに、ジェイムズは吐息をついた。
「名門のこちらと縁組したかったのも、そのためでしょう」
 公爵は天を仰ぎ、フランシスは我慢できなくなって笑い出した。
「なんて奴だ! じゃパーシーは、ジリーだけでなく大英帝国も救ったわけですね」
「まだわからんぞ」
 公爵が歩き回っていた足を止め、鋭く指摘した。
「ジェラルドと母親が抱いていたその壮大な未来図を、パーシーが一人で粉々にしたわけだ。 あの連中、簡単に諦めきれるか?」
 無言でジェイムズの話を聞いていたパーシーは、冷えかかったコーヒーカップをテーブルに置いて、ようやく口を開いた。
「しかもジェラルドには時間がありません。 侯爵という身分を失ったら、これまで踏み倒していたツケが、どっと回ってきます。 あっという間に破産して、債務者牢獄行きになるでしょう」
「今のうちに返しておけば別だけど」
 フランシスがさらっと言うと、ジェイムズはすぐ首を振って否定した。
「そういう話は聞きませんね」
「だから究極の決闘申し込みか」
 デナム公爵は呟き、ブランデーのお代わりをグラスに注いだ。
「よろしい。 立会人はわたしがなろう」
 驚くパーシーを手で押しとどめると、公爵は決意を込めて宣言した。
「どんな小細工も許さない。 わたしがこの目でしっかり見張る」












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