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手を伸ばせば その257


 ジリアンは凍りついた。
 手袋を投げるのは、決闘の申し込みだ!
 パーシーは鋭い視線をジェラルドに投げると、静かに馬の手綱を引き、道端に寄せて馬車を止めた。


 上等な手袋は、パーシーの動作につれて足元へ落ち、小さく丸まった。
 正装のジェラルドは、付き添いのウォレンダー子爵と共に馬車へ近づくと、ほとんど口をあけずにぎこちないしゃべり方で言った。
「場所と武器は決めさせてやる。 どちらが正統な跡継ぎか、真剣勝負で決めよう」
 パーシーは物憂げな眼差しで、自分と同じぐらい大柄な青年を眺めた。
「もう決着はついたと思うがな。 僕はライオネル・デントン・ブレアなんだから」
 ジェラルドは横柄に顎を上げようとしたが、とたんに痛みが走ったらしく、顔を歪めて唇を噛んだ。
「ライオネルは十八年前にスノウフレイク池で溺れ死んだ」
「証拠は?」
「ベビー服が浮いてきたと聞いている」
 パーシーはクスクス笑った。
「服なんて誰でも捨てられる。 たとえ子供でも。 ところでミスター・デントン・ブレア、君はそのとき幾つだった?」
 ジェラルドの顔が夕立雲のように黒ずんだ。 明らかに、パーシーはわざとミスターを使って呼んだのだ。 もうすぐジェラルドは貴族の称号を失い、富豪の侯爵の貧しい親戚の一人にすぎなくなるのだった。
 十代初めからちやほやされ続けてきた傲慢男に、パーシーの皮肉は耐えがたかった。 負傷で狭くなった歯の間から火のような息を吐き出すと、ジェラルドはいきなり乗馬鞭を振り上げて、パーシーに打ちかかろうとした。
 パーシーも負けずに鞭を振りかざした。 だが、公道上の叩き合いというみっともない事態になる前に、ウォレンダー子爵がすばやくジェラルドと馬車の間に馬を乗り入れ、壁を作った。
 ジェラルドは唾を飛ばしてわめいた。
「どけ、ジャック! 身のほど知らずの若造に思い知らせてやるんだ!」
「バカな真似はよせ! 礼儀知らずを理由に、決闘を断られるぞ!」


 その一言が、ジェラルドの頭を冷やした。
 彼はしぶしぶ鞭を収めると、腕を上げたために持ち上がった銀色のベストと黒のジャケットを引っ張り下ろし、激情でしわがれた声をパーシーに投げかけた。
「明日、使いをやるから、いつどこで、何を使って決闘するか、その男に伝えろ。
 いいか、今夜中に逃げたりするなよ!」











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