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手を伸ばせば その254


 ハーバートはいったん腕をほどいてから、改めてパーシーの手を強く握った。
 そして、明るい口調で尋ねた。
「じゃ、なぜ認めたんだい? まあ答えは大体わかるが」
 驚いたことに、パーシーは首筋までパッと赤くなった。
「欲しいものがあった。 認知されれば手が届くと言われたから」
「ものじゃないだろ。 人だろ?」
 ハーバートは遂に笑い出し、今でも弟と思っている青年の肩を叩いた。
「マークとやらは、いいところを突いたな。 なかなか戦略家らしい」
「ああ、彼はやり手だ」
 パーシーの眉がひそめられた。
「だが、無鉄砲なところもある。 相手はどんな手段も使う悪党なのに、僕の代役をして命を狙われた」
「おい」
 とたんにハーバートが息を呑んだ。
「代役で狙われただって? じゃ、本命のおまえはもっと危ないじゃないか! 早く中に入ろう。 こんなところに突っ立ってる場合じゃない!」


 ハーバートは、つもる話に夢中の姉妹をも呼び寄せ、急いで安全な屋内に入れた。 そして、手を握り合って離れないジリアンたち二人を居間に誘導すると、すぐパーシーを促して談話室に急いだ。
 きっちりと扉を閉め、念を入れて内鍵までかけた後、ハーバートは部屋の中央にパーシーを連れていき、椅子をニ脚持ってきた。
「ここなら誰にも聞こえない。 だから遠慮なく話せ。 おまえを片付けたいのは、これまでハバストン侯爵だった奴だな?」
 パーシーは低く肯定した。
「そう、ジェラルド・デントン・ブレアだ」
「もう奴を屋敷から追い払ったのか?」
「いや。 国王の正式な勅許が出るのを待っているところだ」
「それじゃ、まだおまえは社交界では無名なんだな。 よし、知り合いのおしゃべりな男爵に耳打ちして、広めてもらおう。 こんな大きなゴシップは、あっという間に伝わるはずだ」
「なあ、兄貴……」
「海軍しか知らないおまえには不愉快だろう。 だが宣伝には凄い効果があるんだ。 ゴシップは低級だが、人を守ってくれることもある」
「海軍も情報戦は凄いよ」
 パーシーは片頬をほころばせた。
「じゃ、わかるはずだ。 おまえ両親のどちらかに似てるか?」
「マークやナサニエル伯父によると、顔立ちは母似で、体つきは父そっくりだそうだ」
 ハーバートは感慨深げになった。
「とすると、母上はうちの母に似ていたんだな」
 それから、急いで付け加えた。
「顔だけって意味だ。 男好きと言ってるわけじゃない」
「気にするなよ。 兄貴の気持ちはよくわかってる」
 ハーバートは微笑んで眼をしばたたかせた。
「ああ。 ともかくご両親に似ているなら、ますます話題になる。 暗殺など企んだら、すぐ犯人と名指しされる状況にしよう」
 次いで、ハーバートはまだ美しく晴れている戸外を窓越しに眺めた。
「護衛と調査員は雇ったか? まだなら金に糸目をつけるなよ。 必要な額は任せてくれ。 勅許が出るまで、おまえは僕の弟なんだからな」











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