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手を伸ばせば その251


 すかさずジェイコブは、真正面に座る娘婿に向かって身を乗り出した。
「しかし、ジョックはよく君を見つけたな。 それともマークとかいう軍人が発見したのかね?」
「いえ、ジョックです。
 彼が僕を預けた養育所の女主人は、けっこう悪賢くて、セイディという乳母が二十ポンドも出して僕を引き取っていったものだから、もっとむしり取れると思ったんです。
 彼女は、その通りやってました。 セイディの後をヒモの男に尾行させて、勤め先がラムズデイルの屋敷だと突き止めたんです。 セイディはけっこういい給料を貰ってたのに、脅迫されてすっからかんになったらしいです」
「なるほど、そういう女ならやりそうなことだな」
「ええ。 ヒモの男が酒場で酔っ払って自慢しているのを、ジョックの友達が聞いて、休暇でロンドンに戻ってきていた彼に知らせてくれました。 で、二人でヒモをボコボコにして、僕がいるのがラムズデイル家だと口を割らせたんです」
 パーシーは、感慨深げに口元を引き締めた。
「ジョックは、わざわざ汽車でニューポートまで、僕を見に来たそうです。 そして、兄にも父親にも可愛がられ、のびのびと育っているのを見届けて、帰っていきました。
 そのときは、もう僕の実の母は亡くなり、父は外国へ去った後でした。 まだ幼児の僕をお家騒動に巻き込んで、今度こそ命を奪われるのが怖かったと、ジョックは言ってました。 彼には心から感謝しています」


 それまで興味なさそうに窓の外を眺めているように見えたジュリアだが、実はちゃんと聞いていたらしい。 不意に二人の会話に割り込んできた。
「じゃ、十何年も経ってから事件を蒸し返したのは、誰の差し金?」
 パーシーは、まっすぐな眼差しを義理の母に向けた。
「ナサニエル・デントン・ブレア氏です。 スコットランドの分家の長の。
 ナサニエルさんは、初めからキャロライン夫人を疑っていて、ジェラルドが侯爵位を継ぐのに反対でした。
 それで、評判の悪い彼の素行を調べてくれと、マークに頼んだんです」
「よく名前が出てくるけど、マークって誰?」
「やはりデントン・ブレアの分家の一人です。 去年海軍少佐になりました」
 私をジェラルドから救ってくれたのはマークよ、と言いたかったが、ジリアンはじっと我慢した。
「それで、マークはキャロライン夫人にクビにされた使用人から話を聞き回っていて、ジョックにたどりついたんです」
 マークは普通の軍人ではなく、腕利きの情報将校らしい。 ジョックから過去の話を聞きだすのは、お手のものだっただろう。
 因果は巡り巡って、マークはパーシーの素性を知った。
 ラムズデイル家の引越しに伴い、アボッツ・アポン・ロック村までマークが姿を現わしたのは、そうした事情があったからだったのだ。












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