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手を伸ばせば その248


 ジュリアの向かいの席についた公爵は、心ここにあらずといった様子で、バラ模様のティーカップをぼんやりと眺めていたが、やがて思い立ったように顔を上げた。
「それで、もうあの青年は正式にハバストン侯爵なんだね?」
「はい。 公の認可が下ったので、奥さんにこちらへ来てもらったのです」
 ロッシュは明確に答えた。
 公爵は眉を上げ、慎重に提案した。
「では、改めて我々も、新しい侯爵に挨拶して、婿と認めなければならんな」
「これから社交界へ入るのは大変でしょうけど、育ちの悪さは私たちが面倒を見てあげれば、何とかなるわ」
 ジュリアの言葉の後、短い沈黙が落ちた。
 ジュリアは、誰も相槌を打たないのに気づいたのか気づかないのか、ともかく平然として更に言った。
「貴族院の議席を取るように勧めましょう。 何にせよ、財産は唸〔うな〕るほどあるのだから、格式を上げるよううまく使わなければね」
 さすがにたまりかねて、夫の公爵が口を挟んだ。
「まだ十八かそこらの若者だぞ。 戦時ではあるが、ゆったりと新婚旅行でもさせてやるべきだ」
「私だって十七で結婚したではありませんか。 それにあなたは、私と知り合ったときには、もう各地にある様々な領地を管理していらした。 二十歳そこそこだったけれど、あんな子よりずっと大人でしっかりしていたわ」
「そう見えただけだ」
 デナム公爵は苦りきって呟いた。


 客間では、パーシーがジリアンを膝に載せて、背後から頬を寄せ合っていた。
 目を閉じたまま、ジリアンが囁いた。
「なんだかぼうっとしちゃって、頭が全然動かないわ」
 まだほっそりした胴に腕を回して、パーシーは耳打ちした。
「まず、僕たち二人の家を手に入れよう」
 たちまちジリアンはパッと目を見開いた。
「私たちだけの?」
「そうさ! 僕らと、生まれてくるベビーが楽しく暮らす家。 買ってもいいし、作っても、横取りしてもいいよ。 侯爵家を継いだ最大の特権だな」
「横取りって、ジェラルドから?」
「もちろん」
 パーシーの深い声に、冷ややかな怒りが混じった。
「あいつの母親は、僕の母を殺した。 でも、証明するのは難しい。
 ジョックが裏世界に詳しい友達から聞いた話では、あいつが爵位を継いで二年の間に、元の雇い人とその知り合いが三人、妙な死に方をしたそうだ。 金ができたとたんに、母親の罪を知る実行犯の口封じをしたわけだ」
 ジリアンの心に、激しい怒りが燃え上がった。
「捕まえられないのね。 あなたの仇なのに」
「でも、ただじゃおかないよ」
 パーシーは、喉の奥で低く笑った。
「二人とも、手ぶらで屋敷を出ていってもらう。 もとの暮らしに逆戻りだ」
「同情はしないわ」
 珍しくジリアンも冷たい口調になった。
「お金があったら、きっとあなたに仕返ししようとするから」











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