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手を伸ばせば その247


 束の間、パーシーは驚きのあまり、途方に暮れたように見えた。
 だが、立ち直りは稲妻のように早く、すぐに全身の筋肉が喜びに躍動した。
「子供? ほんとか?」
 ジリアンは怒ったふりをした。
「もちろんよ。 こんな大事なことで嘘つくわけないじゃない!」
「ああ、ジリー」
 パーシーは、顔をくしゃくしゃにして笑った。
「大切なジリー、すばらしいな! 夢がすべて叶うなんて!」
「夢だったの?」
 無邪気に尋ねるジリアンを、パーシーは軽々と横抱きにした。 そして、壊れ物のようにそっとソファーに下ろし、スツールを引いてきて傍らに座った。
 ジリアンの手を持って何度も唇を押し当てた後、柔らかな金髪を指で愛おしそうに掻きあげながら、パーシーは心を込めて囁いた。
「そうだ。 十五のときからの夢さ。 君と、子供たちのいる家。 あったかくて陽気な家庭。 それが頭にこびりついて、どうしても離れなかった。 手の届かない人だとわかっていたのに」
「私が?」
 ジリアンは本気で驚いた。
「いくら公爵家の生まれでも、四番目のみそっかすよ」
「よく言うよ。 今じゃご両親の希望の星じゃないか」
「それは、上の二人が恋をして逃げてしまったから」
「いや、それだけじゃない。 お姉さん達とは輝きが違ったよ。 子供のときから」
 パーシーははっきりと言った。 それから、不意に前のめりになって、ジリアンの胸に額をつけた。
「ごめんな、ジリー。 あっちこっちに行かせて、苦労させて。 みんな、僕が君を欲しがったせいだ。 どうしても諦められなかったから」
 ジリアンは、熱いものが喉にこみあげてくるのを感じ、夢中でパーシーの頭を両腕で抱えた。
「私たち、同じ夢を見ていたのね。
 他の男の人なんて要らなかった。 私もあなただけが欲しかった……!」




 ようやく逢えた二人が、客間で愛を確かめ合っている頃、陽光が入って明るい食事室では、思いのほか話が弾んでいた。
 切り替えの早いジュリアは、上品にクランペットを口に運びながらも、見栄えのいい若夫婦をどれだけ華やかに社交界へ押し出すか、着々と計画を作り始めていた。
「考えてみたら、あの子を先にイタリアでデビューさせてしまって、肝心のこちらではまだ宮廷にお目見えさせていなかったのよ」
 楽しい話なら何でも好きなアナベラは、眼を躍らせて盛んに頷いた。
「すぐに招待状が来るでしょうね。 すばらしいですわ。 伝統の旧家同士のおとぎ話のような結婚ですもの」
 ジュリアは鷹揚〔おうよう〕に微笑んでみせ、話を進めた。
「ジリアンには、ふさわしい持参金を喜んで持たせてやります。 上の二人が勝手な振舞いをしたから、余っているぐらいなんですよ」












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