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手を伸ばせば その246


 二人だけで客間に残されたとたん、パーシーは再びジリアンを引き寄せ、飢えた狼のような凄い力で胸に抱いた。
 足が半分宙に浮いて、ジリアンは小さくあえいだ。
「パーシー、いえ、本当にレオなの?」
 いろんな過去の出来事が一度に明かされたため、企みか事実か、まだジリアンは半信半疑だった。
 パーシーは低く笑い、形のいい鼻をジリアンの額にこすりつけた。
「本当なんだ。 驚いたろう? 僕も一昨年聞かされたときは、まったく信じなかった。 あきれて、張り倒してやろうかと思ったぐらいだ」
「話したのは、マーク?」
 パーシーは不意に真顔になった。 唇の端が、ぴりっと引きつった。
「ああ、そうだ。 君はあいつを随分信頼してるみたいだな」
 その言い方に嫉妬の影を感じて、ジリアンは目をしばたたいた。
「友達としてよ。 危ないときに助けてくれたし」
「僕が助けたかった!」
 悔しくてたまらなそうに、パーシーが呻いた。
「くそっ、改めて身元を証明して除隊するのに、二週間もかかっちまった」
 宥〔なだ〕めるためにジリアンが背伸びして唇にキスすると、パーシーも情熱的に応えた。
 ようやく顔が離れてから、ジリアンは尋ねた。
「海軍を辞めたの?」
「うん。 もう身軽な次男じゃなく、責任のある跡継ぎになったから」
「そうね……」
 大貴族の跡取息子。 それは特権だけでなく、重大な責任を伴った。 広大な領地と先祖代々の財産を管理するだけでなく、一族の雑多な親戚たちの面倒を見なければならない。 一昔前なら領主という立場だから、長男は普通、危険を伴う仕事に就いてはいけなかった。
 それにつけても、一つわからないことがあった。 ジリアンは、うっとりした顔でもう一度キスしようとするパーシーの唇に、二本指をそっと当てて止めた。
「で、私は誰の奥さんになったの?」
 ぼうっとしたパーシーの瞳に、焦点が戻った。
「もちろん僕のだ!」
 その断言で、ジリアンは胸を撫で下ろした。 あまりにも安心感が強く、目まいがしてよろめいたほどだった。
「でも教会ではマークと……」
 パーシーは肩をそびやかせ、激しく遮った。
「あれは代理結婚なんだ。 名前が一部同じなのを、マークが思い出してやったことだ。
 デントン・ブレアには伝統の名前がいくつかある。 特に多いのが、マーカスとライオネル。 祖先にその名前の大物がいたらしい。
 実はジェラルドの奴も、マーカスの名がついているんだ。 ライオネルはないが」
「じゃ、同じ名前のところだけ名乗って、式を挙げたわけね」
「だから友達の牧師がいる教会にしたんだって。 牧師を言いくるめて、式を挙げに来た花婿は僕だったらしいと証言させた。 その牧師は、ごまかすのは嫌だと文句たらたらだったようだけどね」
「はあ。 らしい、というところがミソね」
「完全な嘘じゃないから」
 ジリアは目を閉じて、心からの笑みを浮かべた。
「よかった〜。 望みは持ち続けていたけど、ずっと落ち着かなかったのよ。 ふたりの赤ちゃんが、晴れてみんなに祝福してもらえるんだろうかって」












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