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その236
ポーツマスは、ロンドンから六十五マイル(≒百キロメートル)ほどの距離だ。 しかも、交通の要衝だから、道は整備されている。 馬車を飛ばせば半日で着く近さだった。
ジリアンが暗闇に光る目を見た翌日の午後、早くもロッシュ邸に訪問者があった。
それは、リック・レイシャムという名前の判事だった。 エクセターの保養地で寒を避けていたそうで、ロンドンへ戻る途中、大学仲間のロッシュ大佐の顔を見ようと立ち寄ったと、訪問理由を説明した。
だが、油断なく見回す眼差しが、レイシャム判事の言葉を裏切っていた。 彼が何かを、または誰かを探しているのは、すぐわかった。
一人で応対に出てきた大佐と、よもやま話を交わした後、判事はビリヤード・ルームに行こうと誘った。
「エクセターの宿では腕の悪い相手ばかりでね。 久しぶりに出ごたえのある対戦をしたい。 どうかね?」
「望むところだ」
相手の出方を知ろうと、大佐はすぐ受けて立った。 実際、休暇中で退屈もしていた。
一ゲーム終わったところで、ようやく判事は本題を切り出した。
「ところで、最近君の家に若い女性客が来たという噂を聞いたんだが」
さりげなく話題にしたかったのだろうが、失敗した。 大佐がキューにチョークを塗っている間、わざと返事をしないで黙っていたからだ。
沈黙の中で空気がぐんぐん凝縮され、緊張が耐えがたいほど高まってから、大佐はようやく口を開いた。
「これは驚いたな、リック。 君が下らない噂などに興味を持つとは」
「いや、ただの噂じゃないんだ」
レイシャム判事は、突然むきになった。
「これは公式に知られていないことだが、君には説明しておかないと。
実は、ある貴族の令嬢が昨年末から行方不明になっている。 誘拐されたか、自分で家出したか、定かではない。 ともかく、三階の寝室から忽然と消えた」
大佐はまったく平静に、玉を突いて散らし、鮮やかにポケットへ入れた。
「ほう。 よく今まで世間に知られずにいたものだな」
「親が実力者なんだ。 だが、そろそろ限界だ。 南部の実家へ帰ったことになっているが、三ヶ月以上姿を見られていないとなると、周囲が怪しみ出す」
大佐は次の狙いを定めるため、台の周りを移動した。
「それで? 君が捜索を頼まれているのか?」
「いや、それは警察の仕事だし、そういう事情だから捜索願は出されていない」
判事は咳払いした。
「ただ、まだ令嬢は未成年だし、ご両親の心痛も相当なものだから、ぜひ無事に見つけ出してあげたいと思っている。
そんなところに、情報が飛び込んできた。 昨日この屋敷に招かれた若いご婦人が、その令嬢にそっくりだというんだ」
大佐は動きを止め、面白そうに眉を吊り上げた。
「確かに客は来たが、彼女は令嬢じゃない。 れっきとした士官夫人だ。
それに、顔が似ているって何だ? 若い女性は多かれ少なかれ皆似ているし、君も法律関係の仕事をしているから知っているはずじゃないか。 目撃者の証言が、いかに当てにならないかを」
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