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その232
教会の建物はひときわ大きいから、どの村でもよく目立つ。
二人は、その小さな村(たぶんミアーズ・アンド・グレイ村だろうとミリーは思っていた)でも、すぐに古びた教会の塔を見つけることができた。
幸い、塔の東側に牧師館が付属していて、窓から黄色い光が漏れていたので、ミリーはちょっとためらった後、勇ましく玄関扉に近づいて、両手で叩いた。
ジョックは、木の幹に身を隠して、その様子を覗いていた。 やがて蝋燭をかかげた中年の婦人が戸口に現われた。 牧師の奥さんか家政婦だろう。
婦人は岩のような顔をしていたが、気立ては優しいらしく、酔った芝居をしてフラフラ体を揺らしているミリーを、すぐ家に迎え入れてくれた。
ジョックはひとまず安心して、木陰を離れた。 次は鉄道の駅を探して、ロンドンへ戻る。 油屋と結婚している従姉妹のスーに、子供を預かってもらうつもりだった。
鉄道の便はうまくいった。
赤ん坊も相変わらず上機嫌で、将来の我が子もこんなに楽ならいいのに、と感心するほどだった。
だが、不運はすぐそこまで来ていた。
車中で夜が明けたので、着いたその足でスーの家へ行くと、店は閉ざされていて鍵がかかっていた。
焦ったジョックが隣の店に尋ねたところ、クリスマスに夫の実家へ呼ばれて、一家総出で旅に行ったという答えが返ってきた。
ジョックは頭を抱えた。 器用な彼だが、まだ独身だし、赤ん坊については何も知らない。 それでも、乳を飲んでから既に五時間は経っているから、そろそろ空腹になるだろうぐらいのことはわかった。
牛か羊のミルクを買って飲ませるぐらいのことはできる。 おむつだって、いざとなれば換えられるだろう。 だが、独身の若い男が、忽然と現われた赤ん坊を自分で育てているとなると、やたら目立つこと間違いなしだ。 もしキャロライン夫人の耳に届いたら……。
しかたなく、彼は赤ん坊を養育業者に預けることにした。 一週間以内に必ず迎えに来るので、ちゃんと食事をさせて世話をすること、という条件をつけて。
そのために、へそくりからシリング銀貨がまた消えた。 相場の倍は払ったのだから、まさか四日後に、業者が金に目がくらんで、子供を売ってしまうとは、夢にも思わなかった。
* * *
ジョックがロンドンのデナム公爵邸で、フランシスに誘拐事件の顛末を話している頃、ジリアンは変装を解いて金髪に戻り、軍艦でポーツマスに到着した。
身元引受人になったロッシュ中佐は、港までわざわざ迎えに来てくれていた。 しかも、ほっそりと美しい奥方まで同伴して。
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