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その212
今度の避難は、驚くほど徹底的に行なわれた。
陸路で三日かけてグラスゴーへ向かう途中、フォルカーク近郊の宿屋で、ジリアンはメアリーと共に、二階の部屋へ入った。
翌朝、出発のときに降りてきた娘は、ジリアンと同じ服をまとった別人だった。
ジリアン本人は、小間使いのデイジーと服を取り替え、深く帽子を被ってメアリー夫人の後ろに付き従った。 デイジーは以前、ダンディーの小さな劇団で女優をしていたことがあるとかで、なかなかうまくジリアンの身のこなしや話し方を真似ていた。
すり替わりは、グラスゴー手前でもう一度実行された。 メアリーが地元の少女を面接して雇っている間に、ジェムがジリアンを一足早くグラスゴーへ連れていって、ミセス・クリスティン・モーガンとミス・キャサリン・ヒルという姉妹が経営している私塾に預けた。
ロンドンのデナム公爵邸では、三月に入っても陰鬱な落ち着かない日々が続いていた。
父のジェイコブは、探偵事務所を丸抱えする勢いで多くの人手を雇い、密かに末娘の行方を探させていたが、手がかりの糸口さえ掴めなかった。
フランシスも、大学を一時休学して、捜索にかかっていた。
ただ、彼は直接ジリアンを追わなかった。 その方面は、父の雇ったプロに任せておけばいい。
フランシスの取った手段は、勉強をさぼったグータラ息子に見せかけて、社交界や遊技場に出入りし、噂話をさりげなく聞き取ることだった。
可愛い妹たちの中でも、ジリアンは特に兄と仲が良かった。 少なくとも、フランシスは末の妹に信頼されていると思っていた。
それなのに、ジリアンが誰と消えたのか、彼にはまるで見当がつかなかったのだ。 これは衝撃だった。
ジリーは人当たりがいいが、決して軽々しく男についていくような娘ではない。 にもかかわらず、ジェラルドの顎を砕いてジリーをやすやすと連れ出したのは、確実に男だ。 それも相当腕っぷしの立つ、喧嘩慣れした男性だ。
パーシー以外に誰がいたというのだろう。 謎の男がジェラルドに食らわしたパンチには、殺意に近いものが感じられた。 おそらく、ジェラルドに恨みを持つ人間だ。 だから、彼の周辺を調べれば、あぶり出せるかもしれない。 フランシスは、そう考えたのだった。
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