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表紙

手を伸ばせば その208


「親父はげじげじ眉の抜け目ない商売人だが、肝っ玉が据わっていて、俺達兄弟を分けへだてなく可愛がってくれる。
 その点は、ハーブも同じだ。 俺達を本気で怒るし、真剣に庇う。 引け目なんてこれっぽっちも感じさせないんだ。
 俺は物心ついたときから、そんな親父と兄貴が大好きだった。 浮気者の母親が朝帰りしてきて、ブン殴りたくなったときも、二人のために我慢した。 二人とも、可哀想なほど母のエリザベス・ラムズデイルに夢中だったからな」


 これは……!
 パーシーの言葉に隠された重大な秘密に気がついて、ジリアンは青ざめた。
 妻を愛するあまり、浮気を黙って見過ごしていた夫。 彼はその浮気の結果をも受け入れ、実の息子たちとして育てたのだ。
 ジリアンの辛そうな表情を見やって、パーシーは自嘲するようにフッと笑い、乱れた金髪の頭を彼女の肩口に寄り添わせた。
「俺が軍隊に入ると言ったとき、親父はおろおろして止めたよ。 貴族の次男は軍人か牧師か、法律家になるもんだと言ったら、従男爵は本物の貴族じゃないからそんなことしないでいいと怒鳴った。 なんか嬉しくてさ、親父を抱きしめちゃったよ、思い切り。
 親不孝してるなと思う。 あんないい人を心配させたくなかった。 それでも俺は……」
 いきなり体を鮎のようにしならせて半回転すると、パーシーは息が苦しくなるほど強く、ジリアンを腕の中に封じ込めた。
「君が欲しかった! 親父が与えてくれたような、賑やかで明るい家庭を持ちたい。 でも、明るければそれでいいってもんじゃないんだ。
 その家を仕切るのは、君しか考えられなかった。 君がいてこそ、我が家なんだ」
 私も、と叫ぼうとしたが、パーシーは熱に浮かされたようにしゃべっていて、ジリアンが言葉を挟む隙がなかった。
「高望みだってことは、わかっていた。 だから、いっそ嫌われようとしたんだけど、ほんとに嫌われそうになると我慢できなくて」
 ジリアンの唇が震え出した。 自分の気持ちにうろたえ、悩み、行きつ戻りつしていたのは、パーシーも同じだったのだ。
 ジリアンは、浅い息遣いになったパーシーの頭を抱え、想いのありったけを込めてキスを贈った。
「愛してるわ、パーシー! 大好きな人は沢山いるけど、こんなふうに愛しているのはあなただけ」
「俺も」
 荒々しいほどの息が応えた。
「俺は、君以外の女はみんな好きじゃない」








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