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表紙

手を伸ばせば その162


 人は見かけによらないもので、パーシーは元から字が綺麗だった。
 それが、手紙の途中からどんどん乱れて大きくなり、情熱に任せて書き進んだのがよくわかった。


『最愛のジリー
 君の手紙を、三通まとめて受け取った。
 すごく嬉しかったし、ほっとした。 やはり学校へ返されていたんだね。
 知ってると思うけど、君の一家は兄とマディも連れてスコットランドへ出かけた。 兄たちは急に呼び出されて、うちへ連絡する暇もなかったんだ。
 話を聞いて、パディントン駅へ飛んでいった。 君もいるものと思って、一目見たかったんだ。
 汽車は発車寸前で、窓から乗り出した兄と少し話せただけだった。 君の両親は、君のことになるとすごく不機嫌になって、何も話してくれないと言っていた。 だから、先にスコットランドへ行かされているのかと思い、次の列車で後を追った。
 でも、君はいなかったし、マディも行方は知らないそうだった。 諦めきれなくて、もう一度ホテルに行ったら、出入り禁止にされていた。
 そこで、やっとわかったんだ。 君と僕のことが、ご両親に知られてしまったことを。
 告げ口したのは、エンディコットだった。 白を切ったが、すぐ口を割った。 僕を本気で怒らせたらどうなるか、身にしみてわかったはずだ。
 父はかんかんに怒ったが、喧嘩は示談にして、エンディコットをクビにしてくれた。 コリンとリュシアンも全面的に僕の味方さ。
 知り合いが、すぐ新しい先生を推薦してくれた。 この人が軍隊上がりですごく面白いんだ。 テント張りやロープ結び、湿った木に火をつける方法とか、服を着たままどう泳ぐかとか、やたら冒険的なことを一杯知ってて、弟たちはもう夢中になって尊敬してる。 ロビンソン・クルーソーごっこが、やつらの今一番のお気に入りだ。


 ああ、ジリー、本当に心配したんだよ。
 僕はまだ十六になったばかりの半人前だが、君の場合、女子だから、もう十五になったら結婚してもおかしくないんだ。
 まさか無理やり嫁がせることはないだろうけど、早めに誰か貴族と婚約させることはできる。 実際、マディがそうさせられそうになった。
 そんなことになったら、絶対さらいに行く。 相手が誰でも、君を連れ出して、世界の果てまで逃げる。
 だから、元気でいてくれ。 健康だけは気をつけて。 君がどこにいても、僕が君を愛していて、生きがいにしていることを忘れないで!


君を何よりも大事に思うパーシーより』






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