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その161
ジリアンとベスを学院へ送り届けた後、マースデン子爵夫妻は、遅ればせの新婚旅行を楽しむためにパリへ出かけた。
夏休み真っ盛りの時期で、予想した通り学院は閑散としていた。 だが嬉しいことに、二人が到着した翌々日、ジリアンの仲間の一人ゲルトルードが、母と喧嘩して早めに学院へやってきた。
一人ぽつんと馬車から降りたとき、ゲルトルードの顔は典型的なふくれっ面だった。 それが、玄関を駆け抜けてジリアンが迎えに出たとたん、太陽が雲間から姿を現わしたようにパッと輝いた。
「ジリー!」
「ガーティー!」
親友二人が大騒ぎで抱き合うのを、後ろでベスが遠慮がちに見守った。
「あなたが私より早く来てるなんて、夢にも思わなかったわ!」
「親に押し込まれたの。 地下牢代わりに」
「なにそれ?」
「すぐに教えてあげる。 それより、ね、こっち来て。 紹介するわ。 新しく入ったエリザベス・スタンディッシュよ」
普段は人見知りするゲルトルードだが、ジリアンの後輩ということで、ベスには優しく接した。 そしてしばらく三人で遊んでいるうちに、本当に仲良くなった。
まだ学期は始まっていないから、就寝時刻まではずっと自由時間だ。 ジリアンは、午前中にぎやかに遊び、午後はピアノを弾いたり手紙を書いたりして過ごした。
学院内では、ベスはベッツィーと呼ばれることになった。 なぜなら、ジリアンとゲルトルードの親友にベス・スタイルズがいるからだ。
「同じベスじゃ混乱するでしょう?」と言い出したのは、ゲルトルードだった。 ジリアンはすぐ賛成したし、本人のベスも別に気を悪くした様子はなく頷いた。
「そうね。 エリザベスはよくある名前だから、どこへ行っても重なるの」
「いい名前だし、愛称もいっぱいあるわよね。 エリー、イライザ、リサ、リスベス、ベシー、ベッツィー、リズ、リジー …… わー、きりがないわ。 ベスちゃん、好きなのはどれ?」
「そうねえ」
選べなくて、ベスは目隠しをして、名前を書き並べた紙に指を置き、ベッツィーに決めた。
やがて夏休みが終わりに近づき、続々と生徒たちが戻ってきた。
ベス改めベッツィーは、早く来て学院の習慣と先輩のゲルトルードになじんでおいたおかげで、すぐ授業に解けこんだ。
そしてジリアンには、九月の初めに嬉しい便りが届いた。 夏の間に三通出した手紙が、八月の半ばにパーシーの元へ無事届いて、返事が来たのだ。
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