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手を伸ばせば その157


 ジリアンは度肝を抜かれた。
 あまり驚いたので、反射的に本音が口から飛び出してしまった。
「え? あなた大尉の妹さんなの?」


 前の座席で、ベスの姉オリヴィアは、次にジェスチャーする番になった若い農場主の下手な動きに、盛んに答えを浴びせていた。
 その彼女が不意に声を出すのを止め、振り向いた。 ジリアンを見つめる目には、明らかな驚きが浮かんでいた。
 ベスは、可笑しそうに唇を持ち上げ、さらに小声になった。
「ええ。 妹といっても私は預けられた養女なので、実家の姓を名乗っているの。 エリザベス・スタンディッシュとね。
 でも、兄のマーカスとは仲良しよ。 同じ学校に行くのは、兄の推薦。 あなたやお友達が、私を守ってくれるんじゃないかと、勝手に期待しているらしいわ。 私って変わり者で、引っ込み思案なの。 だからマーカスは、私がお高くとまった上流の子にいじめられると心配してるの」
 ジリアンは、新しい興味を持って、ベスを眺めた。 この子はマーカス・デントン・ブレア大尉の妹さんなの? じゃ、オリヴィアは?
 顔を上げると、じっとこちらを見ていたオリヴィアの視線とぶつかった。 彼女はわざわざ椅子を動かして後退してきて、妹の肩に腕を回した。
「あら、私たちがマーカスの妹だと知らなかった? 私の結婚前の苗字は、デントン・ブレアよ」
「全然」
 ジリアンはゆっくり首を振った。
「思ってもみなかったわ。 大尉とは良いお友達だけど、ご家族のことを聞くほど親しくはないから」
「親しくないですって? 手紙のやりとりをしているってわかって、私たち随分驚いたのよ」
 オリヴィアが、目を大きく動かしてみせた。
「久しぶりに家へ戻ってきたときに、上着のポケットからあなたの手紙が落ちたの。 開封してあったから、ベスがうっかり読んでしまって」
「別に構わないわ」
 ジリアンはあっけらかんと答えた。
「下らないことしか書いてなかったでしょう? 学校でのちょっとした事件とか、こっけいな失敗とか」
「そうなの? 私は読まなかったから知らないんだけど。
 でも、あの兄が女性と手紙をやりとりしてるというのが、信じられなかったのよ」
 三人は、ジェスチャー・ゲームの輪からすっかり外れ、部屋の隅に固まって話をしていた。 周囲はそんな三人にほとんど気づかなかった。
「マーカスは、一見気さくだけど、あれは社交的になろうと努力してるの。 本当は都会が嫌いで、舞踏会も苦手。 軍隊は、まあまあ性に合ってるみたいね。 男ばかりの世界で気を遣わなくていいから」
 ジリアンは、マーカス・デントン・ブレアの素顔にいっそう好感を持った。 素朴で、いい人じゃないか。












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