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その156
港には、フランシスだけでなくマデレーンとハーバートも見送りに来てくれて、ハーバートはこっそりお小遣いをジリアンの手に忍び込ませた。
「これでできるだけ楽しく過ごしてくれ。 ただし逃げ出さないようにね」
「逃げる相手なんかいないわ」
ジリアンは元気なく嘆いてみせたが、ハーバートはチラッと彼女を見ただけで、反応しなかった。 もしかするとパーシーから何か聞いているのかもしれないと、ジリアンはふっと思った。
今度の旅は、期待通り前よりずっと面白かった。
旅の道連れになった子爵夫人のオリヴィアは、気さくで魅力的な笑顔の持ち主だった。 美人とはいえないが、活き活きしていて自然な態度なので、すぐ友人になれた。
それに引き換え、妹のベスは、初め少し近づきにくかった。 姉と違い、冷たいほどの美少女で、口数も少ない。 母のジュリアが子供の頃こんな感じだったんじゃないかとジリアンは思い、敬遠ぎみになった。
一方、黒一点のマースデン子爵エドモンドは、がっしりした体に穏やかな顔の載った、いかにも田舎紳士の雰囲気がある青年だった。 彼が奥方に首ったけという評判は本当で、オリヴィアの姿があるところでは常に目で追い、いないときにはつまらなそうにしていた。
六月の海は、例年にないほど凪いでいた。 船べりに砕ける波も小さく、酔って気分が悪くなる客はほとんどなかった。
それで、退屈しのぎにちょっとした行事が始終行なわれた。 読書会、アフリカの子供たちのための慈善バザー、オークション、ダンスパーティーなどなど。
乗客同士が顔見知りになった一週間後には、若い人中心にジェスチャーの会まで開かれた。 参加した人々は二組に分かれ、簡単な問題を出して、得点を競い合った。
その会で、ジリアンは新しい発見をした。 同じ組になったベスが、びっくりするほど見事な身振り手振りをやってみせたのだ。 贈り物を配るサンタクロースという題だったが、えっこらしょと担ぐ袋が本当に見えるようだった。
ジリアンがあっという間に答えを当てたので、ベスは嬉しそうに横の席に戻ってくると、意外なことをした。 ありがとう、と言いながら、ジリアンの頬にキスをしたのだ。
ジリアンは、目をしばたたかせた。 驚いている様子を見て、ベスははにかんだ顔で囁いた。
「これまで人見知りして、ごめんなさい。 あなたが兄と文通してるって聞いて、意識しちゃったの」
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