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手を伸ばせば その154


 ジリアンが馬車を降りてすぐ、ぽつぽつと大粒の雨が落ちてきた。
 帽子が濡れるのもかまわず、ジリアンは、窓から身を乗り出しているリュシアンとコリンにそれぞれお別れのキスをした。
 エンディコットは、自分も馬車から降りて、ジリアンに付き添って玄関まで行った。


 二人が庇の下に入るか入らないうちに、雨は激しさを増し、辺りの物音が聞こえなくなるほど大きな音を立てて、石段を叩きつけた。
「ひどい雨になったわ。 濡れてしまいますね」
 エンディコットが目を細めて馬車の方を振り返ると、パーシーが急いで助手席から飛び降り、中に乗り込むところだった。
 そのままの姿勢で、エンディコットは乾いた声で答えた。
「大したことはありませんよ。 ほんの僅かな距離ですから」
「乗せてくださってありがとう。 楽しかったです」
「こちらこそ素敵なひとときを過ごさせていただきました」
 急に振り向くと、エンディコットはジリアンに優しく微笑みかけた。
「ではお元気で。 また村で会えるのを楽しみにしています」
「そうですね。 母に頼んでみますわ、故郷の家で夏休みを過ごさせてくれるように」
 ジリアンは無邪気に答え、執事に迎えられて家に足を踏み入れた。
 軽やかな足取りで階段を上るとき、玄関広間でエンディコットと執事のオズボーンが会話を交わしているのがちらっと見えた。 何を話すことがあるのだろう、と少し不思議に思ったが、部屋に戻ったときにはもう忘れていた。




 それから数日は、何事もなく過ぎた。
 フランシスは友達としょっちゅう外出していた。 その一人で外交官の卵だというシドの誕生パーティーに、妹のジリアンを連れていこうとしたが、母は許さなかった。
「たとえ兄弟の友達でも、男性の社交場に未成年の娘を連れていかせるわけにはいきません。 軽いという評判が立ってしまうわ」
「そこまで厳しく言わなくても。 シドにはフィアンセがいて、彼女もその友人も出席するんですよ」
 フランシスの猛抗議にもかかわらず、ジュリアは断固として拒否した。 そして、思いがけない事を言い出した。
「ヘレンの事件でわかりました。 男の子はともかく、女子はいくら厳重に護っても護りすぎではないのよ。
 だから決めました。 ジリアンをすぐスイスの学校へ戻します!」











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