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表紙

手を伸ばせば その149


 オッターボーン街の中ほどにあるラムズデイル邸は、淡い薔薇色をしたモダンな建物だった。
 馬車が止まると、すぐに後ろから従者が降りて車体のドアを開け、折りたたみ式の段を巻き下ろした。
 パーシーも身軽に助手席から飛び降り、前かがみになって出てきたジリアンの手を取って、降りるのを助けた。 動作は無愛想だし顔も無表情だが、口だけがかすかに動いて、ジリアンに囁きが聞こえた。
「ワル共を飽きさせないでくれて、ありがとな」
 ジリアンもそっと囁き返した。
「とてもいい子にしてたわ、二人とも」
 一瞬、視線が交わった。 微笑みかけたかったが、人目があるのでジリアンは我慢した。


 車輪と馬の蹄の音よりも、賑やかに降りてきた少年たちの声で気づいたらしく、マデレーンとハーバートが玄関を開けて、並んで出てきた。 二人の腕はしっかり背後で組み合わさっている。 人前をつくろおうとはしているが、どちらも目もあてられないほど幸せそうだった。
 空いている左手を上げて、マデレーンがジリアンに呼びかけた。
「ジリー!」
「マディ!」
 負けずにジリアンも叫び返し、玄関前の石段を駆け上がって、姉と抱き合った。
「よく来てくれたわね。 ヘレンのこと、あれから何かわかった?」
「ええ、ハリフォードさんから今朝電報が届いて。 中で詳しく話すわ」
 子供に聞かせる話ではないと判断し、ハーバートは続いてやってきたエンディコットに、下の二人を朝食の間へ連れて行って、マフィンか何か食べさせておとなしくさせておくように頼んだ。
 事情を知っているパーシーは、兄夫妻やジリアンと共に、居間へ入った。 部屋は淡色の薔薇やアマリリスで飾られ、真珠色のカーテンが軽やかになびいていた。 早くもマデレーンが自分好みの内装に替えはじめたらしい。
 ふかふかした椅子に腰掛け、紅茶が配られると、ジリアンは記憶を整理して、朝に父から知らされたことを語り出した。
「ヘレンとロス・クレンショーさんは、ロンドンから別々の鉄道会社の列車に乗って、バーミンガムで落ち合ったらしいの。
 そこからカーライルまで行って、スコットランド鉄道に乗り換え、式を挙げたって。 昨日まではエディンバラのホテルに泊まっていたけれど、ハリフォードさんが探し当てる寸前にチェックアウトして、また汽車に乗ったわ。 近くの港から外国へ行くんじゃないかと、ハリフォードさんは心配してるの」
 ハーバートは溜息をついて、目の間を指で揉んだ。
「短い間によく調べたな。 ハルフォードさんは確かに有能らしい。 それにしても、どれだけ長い電報を打ったんだ?」
「天文学的に金がかかっただろうな」
 パーシーが、ぼそっと呟いた。








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