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表紙

手を伸ばせば その148


 エンディコットは、珍しくのぼせていたとしか思えなかった。 いくら立派なゆったりした馬車でも、ラムズデイル兄弟にエンディコットにジリアンがすべて乗るとなると、五人分の座席が必要になる。
 後から上着に手を通しながらやってきたパーシーが、乗り口前にたむろしている一同を見て、そのことをはっきり指摘した。
「誰か一人はみ出るぞ。 どうせ俺なんだろ?」
 狼狽したエンディコットが、操縦席の横に乗るからと言い出したが、パーシーは耳を貸さなかった。
「いいんですよ、俺が乗ります。 ここからオッターボーン街まで行って戻るだけだから、どうってことない」


 ロンドンの市街は、相変わらず賑わっていた。 脇道に入りこむと危険だが、上等な店が軒を連ねている目抜き通りを新興住宅地まで進んでいくには楽しい道筋だった。
 十五分ぐらいの行程を、ジリアンは少年たちとトランプをして過ごした。 二人はあまり変わっていないようだったが、身長はそれぞれ三インチぐらい伸びていたし、よく見ると、顔の輪郭がきりっとして、顎の線がハーバートに似かよってきていた。
 ジリアンの観察するような視線に気づいて、二度目にカードを配りながら、リュシアンがおっとりとした口調で言った。
「僕たち大きくなったでしょう? お父様がね、どんどん男っぽくなって残念だって言うの。 お母様は娘が一人は欲しくて、僕たちを産んだんだって。 でも、ぜんぶ男の子で、癇癪を起こしたんだってさ」
「だからかもしれないけど、小さいときは女みたいな格好させられてたんだ。 髪を肩までカールさせて、レースの一杯ついた服着せられて」
 コリンがだみ声で嘆いた。 彼はそろそろ声変わりの時期に達したらしかった。
「お父様は冗談でおっしゃってるのよ。 息子四人で、うちは頼もしいって、この間自慢されてたもの」
 ラムズデイルの当主で従男爵のサー・ジェイムズが、毛虫のような眉毛をしている割にはユーモアのある面白い紳士だということを、ジリアンは最近気づき始めていた。
 二人の少年は、意味ありげに目を見交わした。
「本当はそうでもないよ。 お父様は、ハーブを後継ぎにするんで、一生懸命仕込んでる。 でも一番かわいいのは、昔からパーシーなんだ。 で、僕たち二人は、おまけ」


 ジリアンは考え込んだ。 パーシーがえこひいきされているとは、とても思えない。 彼には甘やかされた子特有の傲慢さが、かけらもなかった。








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